9.癒しの聖女 その1


 リンタの所属するチームの本拠地は「シュライクの街」というところにある。そこにチームリーダーがいるため、ふたりはフィールドを歩いていた。もちろんチームリーダーには電話済みだ。


 アグリーの街を出て草原を渡り、山をひとつ越えた先に目的の「シュライクの街」がある。山の中腹には「ラークの村」があり、冒険者たちの休憩地点となっている。


 マリカとリンタはラークの村を出発しシュライクの街まであと僅か、というところまで来ていた。


 一度訪れていれば、街から街まではワンタップで移動できるが、マリカはアグリーの街以外を訪れたことはない。ゆえに徒歩での移動となった。


 すると当然モンスターたちとの戦闘になることもある。


 マリカはリンタから戦闘を任されていた。モンスターが強かったり、多数だったりしない限りはひとりで戦うこと。


 その指示をほぼ問題なく遂行することができた。黒いモンスターに襲われてから二週間、トンボの指示通り鍛錬をしてきた成果が発揮された形である。



 だが、マリカは自身の成長よりもリンタの戦い振りに驚愕していた。


 いや、戦いと呼べるのか。



 二十を越えるモンスターに襲撃されたことがあった。マリカも奮戦したものの、まだまだ力量不足。追い詰められつつあった。


 そこへリンタが前に飛び出してきた。文字通り飛び出して来ただけである。攻撃もしなければ身を守るそぶりも見せない。あとはモンスターに攻撃されるがままで、一切手を出さない。むしろおにぎりを食べている。ただ斬られ、噛みつかれ、ときに魔法を受ける。そのうちすべてのモンスターはリンタと同じ傷を負って全滅した。


 レア職「反逆者」のスキル「ハーフ・リベンジ」である。受けたダメージの半分を相手に返す。しかもトリプル・リベンジと違って面倒な制約もほとんどない。十分間発動し続けて、スキル終了後五分のクールタイムを挟めば何度でも使用可能。リンタの基本スキルである。


 リンタとの会話もマリカに刺激を与えた。


 より多くの反射ダメージを与えるために防具は身に付けない。筋力や知力なども鍛えない。その代わりHPのみを徹底的に増やす。おにぎりはHPのステータスアップ効果があるので常におにぎりを食べるようにする。HP回復のために回復薬を大量に持ち歩く。状態異常のダメージは反射できないので状態異常回復薬も大量に持つ。


 武器を振り回すことはなくとも戦う方法がある。その戦い方を極めようとする姿勢。


 マリカはチームリーダーに会うのが楽しみになってきた。


「ねえリンタ、チームリーダーってどんな人なの?」

「んー、少し変わってるけどすっごく優しい人だよ。オレたちは『癒しの聖女』っていうチーム名なんだけど、リーダーの職業が治療士だからなんだ」

「サポートタイプの職業なんだ! なんか強そうな人をイメージしてたから意外かも」


 遠くにシュライクの街が見えてきた。あと五、六分程度で到着だ。


「実際強いよ。回復系の職業ってVIVAランキング1000位以内に入るのすら難しいのに、リーダーは298位。トンボやオレのランキング聞いたあとだからピンとこないかもしれないけどスゴいことなんだ」

「ランキング外の私からしたら全部スゴいよ」

「マリカはこれからだよ。『れい』はV3に滅茶苦茶詳しいんだ。あ、れいってのはリーダーの名前ね。れいからいろいろランキングアップのアドバイスをもらうといいよ」


 リンタは嬉しそうに話す。余程『癒しの聖女』リーダーのれいを慕っているのだろう。自然と早足になる。


「そういえばさ、VIVAランキングって何日も戦うんだよね、どんな感じなの?」

「ランキングをどうやって決めるかってこと?」

「うん、そう」

「えっとね、まずは戦力ってので10000位以内に入らないといけないんだ。戦力はわかる?」


 マリカもトンボと出会ってからV3について自分なりにネットで調べるようになり始めていた。


「わかるよ、ステータスとか職業の熟練度とか装備とかスキルとかを全部数値化して足したものでしょ」

「だね。戦力が10000位に入るとランキングに入るわけ。で、最初は上位から計20組、500人ずつのグループに分けられてバトルロワイヤル方式で三十分戦う」

「500人も? それって決着つくの?」

「大抵は10人くらい生き残るよ。ただ、生き残ったかだけじゃあなくて倒したプレイヤーの数やバトルをした回数、集めたアイテムなどを総合したVIVAポイントで順位を決めるんだ。一時期人気だったバトルロイヤルゲームと似てるみたいだね」


 マリカは腕組みをする。まだまだ知らないことは多い。


「でもそうするとさ、一気に上の順位に上がれないわけよね? 全員倒しても500位アップするだけで」

「500人のバトルロワイヤルは五日間続くんだよ。今の話は一日目。二日目以降は戦力とVIVAポイントを掛け算した数値で毎日500人ずつのグループ分けをし直すんだ」

「なるほど! そしたらVIVAポイントが高ければ上位のグループに入れるということか。でも戦力差も大きく左右するってことね」

「戦力×ポイントだからね。戦力が足りないプレイヤーはポイントを稼ぐしかないってことだね」

「だけどリンタ」

「ん?」

「確かトーナメントもあるって調べたとき見たんだけど、バトルロワイヤルだけ?」

「ううん、トーナメントは最後にあるよ。五日目終了後に、戦力×VIVAポイントがトップ20のプレイヤーだけが最後のトーナメントに参加できるんだ」

「本当にトップの20人だけってことね、しかも一対一のバトル!」

「そうだね。で、優勝するとランキング1位、準優勝で2位って決まっていくんだけど、ちゃんとバトルで優劣が決まるのは4位まで。5位から8位は戦力×ポイントでランキングが出されるよ」

「そこも戦力とポイントなのね。ってことは9位から16位も?」

「もちろん。17位から20位も同じだね」


 まずは10000位に入る。次にバトルロワイヤルでポイントを稼ぐ。トップ20はトーナメント。マリカの中で少しずつイメージが形を成していく。強くなる決意のように、マリカは拳を握りしめた。

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