四
発病してより二週間あまりの後。
ようやく抗生剤が効き始めたのか、それとも白血球が自力で撃ち勝ったのか、なんとか動けるまでに私は回復した。
動けるようになったので、汗と病原体をしっかり吸い込んでしまった布団一式を、ファブリーズして二階の窓辺に干してみる。
窓を開け、外の風に吹かれると、蝉の声が響く中にも、いつの間にか秋の気配がどことなく漂っている。
長いこと寝ていたので、なんだかこの八月は半月ほどしかなかったように感じてしまう。
実際、今月の後半は、ほぼ頭が痛くて寝ていた記憶しかない。
この病は、一体なんだったのだろうか?
ここまで抗生剤が効かなかったところをみると、ペニシリンにかなりの耐性を持つ新手の細菌か、もしかしたらウイルスであったのかもしれない。
ウイルスは細菌と違って細胞をもたないからペニシリンが効かないのだ。
ウイルスは動物の細胞に寄生して、吸血鬼の如く他人のエネルギーを吸い取るのである。
そういえば時を同じくして、例のブラム・ストーカーの『ドラキュラ』も読み終わっていた。
後日談になるが、最早、完全に間に合わないと思っていた小説賞への応募用吸血気小説も、病み上がりの身体に鞭打って、自分でも恐ろしく思う早さで書き終え、投函した。
まあ、あんなやっつけで書いたものなので、全然、期待は持てないのであるが(※さらに後日談であるが、受賞は逃したものの、ぢつは講談社の『メフィスト賞』でファイナリストまでいった)。
いまだ完治はしていないのだけれども、熱も下がり、他にもいろいろすっきりして、なんだか憑き物でも落ちたような、そんな気分だ。
私は、もしかしたら吸血鬼に取り憑かれていたのかもしれない。
短い夏の終わりが、もうすぐそこまで迫っていることを感じさせる青空の色を見つめながら、私は誰に言うとでもなく呟いた。
「
(吸血鬼の夏 了)
※この作品は著者の実体験に基づき、多少、強引なこじつけを交えつつ書かれたものを、さらに再編集したものです。
吸血鬼(ヴァンパイア)の夏 平中なごん @HiranakaNagon
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