学校の怪談の怪談

白陽麗聞

前編

「それでは、来月の校内新聞の記事について誰か案とかあったりするか?」


放課後の夕暮れ時、築63年の校舎のとある一室、そこは僕の通う学校の新聞部として使う教室だ。




『羽島 歩』14才男 趣味はオカルト 超常現象や心霊を好むいわゆる痛い奴だ。




「鈴木ぃ! 起きろ! ちょっとは真面目に話聞かんかぁ!」


「んぁ? あぁ…すんません…。」


『鈴木 誠』14才男 俺の隣のクラスの奴で基本寝ている何を考えているのか分からない奴、こちらから話しかけても特に反応しない変わった奴だ。




「歩! 何かネタとかないの??」


今声かけたのは同じクラスの『北島 朱里』だ、朱里とはいわゆる幼馴染みみたいな関係で幼い頃から何かと俺にちょっかいかけてくるめんどくさい奴だ、特にそれ以上でもそれ以下でもない友人としての関係だ。




「ん? 羽島、何か記事になりそうな案でもあるのか?」


この場を仕切っているのは新聞部部長で俺らの1個上の『安藤 仁』先輩だ。




「えっ……、 あのぉ…これなんてどうですか?」


俺は苦し紛れに学校の怪談の記された文献を見せた。




「ん? 羽島そんな怖いもの話を新聞に載せたいのか?」


「いやっ! 違います!! 違くは無いですけどぉ… でもこの学校でもありますよね!? 七不思議??」




そう、大抵の学校に何かしらあるようにここにも学校の七不思議という怪談が存在していた。


1つめは音楽室にある『目が光るベートーベン』


2つめは負けると異次元の世界に連れていかれるという『じゃんけん河童』


3つめが言わずと知れた女子トイレ右から3番目の『トイレの花子さん』


4つめは校庭を走る『二宮金次郎像』


5つめに誰もいないはずの放送室から流れる『あの世からの校内放送』


6つめは顔の表情が変わる『初代校長の肖像』


そして7つめ2時22分22秒になると階段踊り場の姿見鏡に現れる『もう一人の自分』




とこんな内容だが実はこれにはもうひとつ、そう8番目の怪談話があると噂されている…。


これに関しては確かな情報がなく僕はその噂に対して不思議な興味を惹かれいつかは検証してみたいと好奇心が動いていた。




「う~ん…、まぁ特に書くような内容も見つからんしな、 だが夜に特に最後の話に至っては深夜だろ? そもそもそんな時間帯不法侵入であってまず学校にどうやって入るのだ?」




まぁごもっとも話だ、このご時世に夜学校に忍び込むなんて事できるはず無い。




「あぁ、それなら裏の体育館入り口とか扉が老朽化している関係で鍵が掛かっていないので入れますよ、 多分…。」


うつ伏せの状態から眠そうなしゃべり方で顔を横に向けた鈴木が話しかけた。




「なんで鈴木君そんなこと知っているのよ?」


朱里がその疑問に対してつっこみを入れたがそれは僕も部長も同じ意見だ。




「前に学校に宿題忘れてどうしても次の日提出しないと居残りさせるぞって先生に言われたもんだから入れるところ探したらそこから入れたんで…。」




なるほどなぁ、こいつは今の時間帯こんな感じだけど放課後は何やら今時のゲーム実況?みたいな、いわゆる実況配信者みたいなことやっているから夜はそっちに優先したい関係で居残りはしたくない訳だ。




「うむ、他のみんなはどうだ? 調査する可能性は出たがやってみるか?」




「私はちょっと怖いけどやってみたいです!」


朱里はやけにやる気だな。もちろん僕も、


「部長! ぜひやりましょう!」




「うん、鈴木お前は?」


「ちょうど今やってるゲームも終わるので、そろそろ新しいネタに手でも出しますかねぇ…。」




「決まったな…。 調査決行日はちょうど週末に差し掛かるので明日金曜の12時頃に学校集合しよう! それでは本日は解散っ!!」




急すぎる日にちの決定に一瞬動揺したが、まぁ早く調査したいという気持ちが強かったのでこれはこれでよかったと思う。




「あちゃ~ぁ、どうしよ…。」


何やら朱里が困っていた、 「どうしたんだよ朱里?」


「金曜は塾があるから遅くても11時過ぎになるんだよね? 親も私の帰り待っているわけだしどうしようかな…。」


なるほどね、つまり一度帰ったとしても集合時間の12時までには家を出られないわけだ。




「したらさ誰かの家に泊まってることにして来られるんじゃないか?」


「あっ、それはナイスアイデア! ちょっと美樹に相談してみる!」


そう言って朱里は友人に連絡を取って口裏を合わせてもらえることになった。






ー次の日




退屈な授業を受けながら僕の席は一番後ろの窓側の隅っこの位置にありグランドを見ながらふと校庭入り口付近にある初代校長の像の位置、入り口から校舎に続く一本道の途中にある二宮金次郎像の場所を確認した。ぼけーっと外を見ている時間僕は校庭を眺めるこの時間が好きだ。


特に好きなのは一本道に一直線で並んでいる桜並木が4月の満開頃になるとそれは圧倒的な美しい景色で入学式を迎える新入生たちをまるで受け入れてくれるような迫力がある。


ただこの桜並木の中の一本だけ寿命なのか桜の咲かない木があるのだが…、


「こらっ!! 羽島っ!! 授業を聞いているのか!? ここの計算お前が答えなさい!!」




「4x+3yです。」


「ぐっ、ちゃんと授業は前を向いて聞きなさいっ…。」




確かによそ見をしているが授業はちゃんと聞いてはいる。




ー きーん こーん かーん こーん ー




昼休みの時間だ、僕は弁当を持ってあらかじめ今日調査する場所を視察しにいった。


「歩っ! どこ行くのよ?」


「ん? あぁ今日見るところをちょっと見に行ってくる。」


「それならあたしも行くわ、ねぇ他の二人も呼ぼうよ。」


「僕も呼ぼうと思ったけど、鈴木はこの時間寝てるし安藤先輩もなんか用事があるから来れないって昨日帰り際に言われたんだ。」


「なーんだ、ってあたしだけ誘われなかったってこと!?」


「うん、なんかうるさそうだし…、」 パンっ!!


とりあえず朱里から怒りの肩パンされた。






ー ガコッ ギィィィー… ー


「あった、ここだ鈴木の言っていた入り口。」 昨日鈴木が言っていた夜忍び込んだ体育館入り口を確認した、確かにこの扉はかなり古いようで鍵となる部分が錆び付いたまま固まっているため、ただ閉まっている状態となっていた。学校もよくこのままで放っているもんだ…。




「とりあえず入るところは確認したし、あと23分くらいか…まだ飯も済ませてないし取り合えず2つある校庭で飯食いながら確認するか。」


「えぇ、そうしましょ。」


体育館を後にし校庭へ向かった。




「う~んっ! 風が気持ちいねっ!」


朱里が両腕を大きく広げ太陽の光を全身に浴びた、外は天気が良く空を見ると雲一つ無い一面青空の快晴だった。


校舎のすぐ近くにはベンチがあったので僕たちはとりあえずそこに座り昼食を始めた。




「ねぇ、そう言えば歩聞いたことある?」


「ん、なに?」


「6つめの校長の像の話、表情が変わるっていったじゃん? 私もその話聞いたことあるけど校長の表情って変わるの見たことある人何人か聞いたことあるけどみんなそれぞれ別なんだって。」


「へぇ~、それは初めて聞いたかも。」


「でね! 昔私のお姉ちゃんがいた頃はこんな噂があって、もし校長の像が怒ってる顔をしたら学校が消えて無くなるんだって!(笑)」


「まさか、そんなはず無いよ! そんなことあるんだったらとっくにこの学校無くなってるぜ多分!(笑)」


俺でも聞いたことなかった噂話があまりにも馬鹿げているのでそんなたわいのない会話をし昼休みを終えた。






ーその夜 12時頃




「ハッ、ハッァ…! すみません! 遅くなりました!」


なかなか親の目を盗んで家を出れなかった僕は集合時間ギリギリアウトで遅刻した。


学校の入り口には先に安藤先輩と鈴木が待っていた。


「まぁ、時間も時間だ。 仕方ない、北島も遅れているから大丈夫だ。」




朱里もか、あいつは塾終わりとか言っていたからな遅くなるのも仕方ないか。




それから10分過ぎた辺りだ朱里がやっと学校に到着した。


「ごめんなさい、ちょっと塾が長引いてしまって遅くなっちゃいました!」




「よし! とりあえず全員集合したな、では行くぞ鈴木入り口まで案内をよろしく頼む!」


「了解っす、じゃ体育館まで行きましょ…。」


血気溢れる先輩と非常に気だるそうな鈴木、この二人の温度差を見るのは意外と好きなもんだ。




とりあえず体育館裏へと向かった、やはり夜の学校それもこんな夜遅くだ辺りが暗いのはもちろん校舎からは何か只ならぬ空気を感じた。




「着きました…、確かあの扉だったハズです。」


鈴木が僕らを案内したのは昼間確認したあの場所だった。




ー ギギッ… ギッ…ギィィィ… ー


錆び付いた重い扉が開かれ僕らは無事に校内に侵入した。




ー コツッ コツッ コツッ ー


とりあえず一階下駄箱の広間に向かい安藤先輩が何かノートのようなものを取り出した。


「まずは、何から調査する? 羽島お前的に何から行きたい?」


そんな遊園地のアトラクションではあるまいし…。




「そうですね、とりあえず順番的に2階の音楽室から行きましょう。」


こういうのは何となく順番通り行かないといけない気がする、怪談という不可思議なものはどこかやり方や順番を間違えると後々不幸な目に会うってお約束みたいな感じなのでそこは守っていこうと思った。




「よし、それでは2階へ向かおう!」


先頭を切って安藤先輩が階段へ向かった。




ー ピコンッ ピピッ ー


「ん、鈴木なんだそれ?」


「あぁ、ビデオカメラだよ…配信用に記録していくのさ。」


まぁ後々新聞をまとめる時の貴重な資料となるのでこちらとしてもありがたい記録係だ。




「二人とも早く来ないと安藤先輩に置いていかれちゃうよ!」


先に階段に上がっていた朱里が僕と鈴木に声をかけた。




「…着いたな、音楽室だ。」


学校の怪談1つめ音楽室の目が光るベートーベン、夜な夜な音楽室からベートーベンの名曲『エリーゼのために』が聴こえ恐る恐る音楽室に入ると確かに誰も居ないはずなのにピアノの音が鳴りふと音楽家たちの肖像画を見るとベートーベンの目だけが光っていると言う…。




「特に音は鳴っていないようね…でもやっぱり不気味だわ…」


朱里が言うように確かにここは何は居るような気配がする…。




「よし、ここは俺が先に入ろう…!」


安藤先輩…! 漢らしいっ!! 安藤先輩の勇気溢れる姿勢に思わず胸を打たれてしまった。




ー ガラガラガラッ ー


安藤先輩が先に入り特に何もないことを確認した僕たちは続いて音楽室に入った。




「何も起こらんな、肖像画の方を見ても特に変化無しだ。」


「そのようですね、まぁ僕としては残念ですけど何も起こらないのはそれに越したことは無いですけどね…次行きますか…」


「!? 誰か居ますっ!!」


鈴木が音楽室の奥側にカメラを向け珍しく大きな声を上げた、この声に吊られ僕たちはその方向に視線を向けた。




ー ガタガタッ! ー


教室の奥にある机が動き教室内に音が鳴り響く、確かにここには何か居るっ!?




「何者だっ!!」


安藤先輩が勇ましく声を上げ懐中電灯を向けた。 そしてそこには人影が映り出していた。




「キャァァァァ!!」


朱里が悲鳴を上げその場で後ろに倒れ込んだ。




「わわっ! ちょ、ちょっと待って!」




!?




「君は…誰だ…?」


安藤先輩がそう問いかけ声の主に近づき懐中電灯を良く向けた。




そこには小柄な短髪の似合う学ランを着た少年が立っていた。


「ごっ、ごめんなさい! 勝手に入ったのは謝りますから!!」




「いや、待ってくれ! こちらこそ驚かせるつもりは無かった君はここの生徒だな。」


「はい…、一年の島村っ…、島村 隆也って言います。」




一年生か、あまり見かけない顔だな…。


「それで、島村くんはなんでこんな時間にここに居るんだい? あっ、僕は2年の羽島 歩よろしくね!」


ここは互いに緊張をほぐす意味合いも兼ねて握手を交わした。




「僕、今日ここで宿題を忘れてしまって明日提出しないと先生に叱られちゃうからどうしても取りに来たくて…、」




「分かるっ…、分かるよ島村くん…。 放課後居残りされるほど無意味な時間は無いよねっ…! 俺、鈴木 誠よろしく…。」


鈴木が何か共感をし島村くんの肩に手を掛けた。お前ただ早く帰って動画配信とか寝たいだけだろ。




「3年の安藤 仁だ。新聞部部長 座右の銘は質実剛健だ! 先ほどはすまなかったな島村くん!」




「私も大きな声だしちゃってごめんね! 2年の北島 朱里よ。 よろしくね♪」




とりあえず島村くんにみんな自己紹介を済ませた。すると島村くんから


「あの…、皆さんはそしたら新聞部の方達ですか? そんな人がこんな時間に何やっているんですか? 僕が言えた義理では無いけど…。」




確かに彼はこの教室に忘れた宿題をただ取りに来た一般生徒ってだけで、僕らはただの部活動の一環で夜遅くに無許可で学校に忍び込んだ不法侵入者なんだよなぁ・・・




「ぼっ、僕達はそのぉ・・・取材の関係でちょっと学校に要件があってたまたまここにいるんだよねっ・・・」


「俺たち・・・、学校の七不思議の調査で夜学校に忍び込んだの・・・。」




・・・・・・、鈴木ぃぃぃぃぃぃ!!! お前それストレートに言っちゃう!!!???




「ゴホッ・・・、確かに我々は次の校内新聞に書く記事のネタを求めてここにやって来た」


もう、安藤先輩も包み隠さず島村くんに事情を説明した、最初回りくどく言っていた自分がだんだん恥ずかしくなる。




「学校の七不思議の調査・・・、なんだか面白そうですねっ! 僕も良かったら皆さんの調査のお手伝いしてもいいですか?」




「良いわね! 新聞部なんて今厨二とゲーオタと熱血先輩しかいないから島村くんみたいな可愛い子いたら場の空気和むわ!」




おい朱里、お前は俺達のことそんな風に思っていたのか・・・しかもそのジャンル的に俺厨二じゃねーかよ!P




「俺は別に構わない! 島村くんも、もし良かったらここ出会ったのも何かの縁だ! 君も我々新聞部の活動を見てもらって入って貰えたらそれこそ嬉しい事だろう!」




安藤先輩人が何かと都合よく解釈して島村くんを僕たち新聞部の部員確保に動き出した。


一様僕らは不法侵入の犯罪者だよ!?




「ありがとうございます! 皆さんの邪魔にならないよう頑張ります!!」




いや、島村くんそこは頑張らなくていいよ!




「じゃ、次は1階に行って次の奴知らぺてみるか!」




次は、隣の教室の理科室のじゃんけん河童だ、理科室に何故かある河童のミイラのと言われている手の標本があるのだがそれが夜な夜な噂でふざけてそのミイラとじゃんけん勝負をする。


普通は標本なので変わりはしないがこれがある時じゃんけん勝負をすると手の形が変わって勝てば何も起こらないが、仮に負けてしまうと異世界に飛ばされてしまうという噂がある。




「とりあえずここでは何も無かったから次行こうよ・・・。」


鈴木の提案に僕ら新聞部はとりあえず賛成して隣の理科室へと足を運んだ。




ー ガララッ ー




「理科室って何か、不気味だよね・・・人体模型やら変な動物の標本があるから私は苦手だなぁ・・・。」




朱里が言うように確かに俺も夜の学校の理科室の不気味さと来たら正直近づきたくもない・・・。




「これだな・・・じゃんけん河童の噂がある手のミイラは・・・。」


安藤先輩が理科室の棚を眺め2つ目の七不思議であるじゃんけん河童の噂がされている河童のミイラがあった。




「なんで学校の理科室に河童のミイラがあるんだよ…。」


鈴木がもっともなつっこみを入れ僕らは棚のところに集まった。




「何か不気味ですね… こんな時間に見るのもそもそも悪いかも知れませんね先輩方。」


島村くんが河童のミイラを見て怯えた表情でこちらに語りかけてくる。




「ねぇ歩、このじゃんけん河童ってじゃんけんをしたら良いんだよね? でもやったからって何があるの?」


「別にじゃんけんやった事でどうってこともないさ、所詮はミイラだから。 でもたまにこのミイラの手の形が変わることがあってその時勝っていれば何も無いんだけどもし負けてしまったら異世界に連れていかれるって噂があるんだよ。」




「なるほどな…よし、誰が検証する?」


安藤先輩が皆にそう声を掛けるのだが、誰も不安からか名乗り出るやつはいなかった。




「…ならば私が行こう、羽島普通にじゃんけんをすれば良いのだな?」


「はい…、でも先輩大丈夫なんですか?」


「何がだ? 所詮は噂話なのだろう? 何も恐れることは無いだろう。」


本当にこの先輩の漢らしさには思わず男の僕でも惚れてしまいそうだ。




「よし…! じゃんけん…ぽんっ!」


安藤先輩はグーを出した、対して河童のミイラは特に変化なく何事も起こらなかった。




「ほら、所詮は噂だ。 どうやらこれも外れのようだったな!」


噂の検証をやり遂げた安藤先輩から安堵の表情が溢れた。




「じゃ、じゃあ次の検証に行きましょう! 何もないんだったら早くここから出ましょ、じゃないとやっぱり気味が悪くて…。」


朱里の表情がこの場所から早く離れたいと必死に訴えかけているように感じた、ここは朱里の気持ちを汲んでこの場を後にしよう……?




理科室を去ろうとした時だった、先ほどのじゃんけん河童の手の形が教室自体暗くて見間違いだと思うが大きく開いていたように見えた。


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