水精の森

或人

_____何だよ。騒がしいな。……ああ？ 起きろ？ 大変だ？ 何言ってんだお前ら……良いからって、何なんだよ……ったく。

　で？ 俺様が折角気持ち良く寝ていたところを邪魔したんだ。よっぽど急な用なんだろうな。

……ああ。榊家って、あの西の国で今1番栄えてる屋敷のことだろ。そりゃ覚えてるよ。何たってあのクソ下郎が嫁いでった先なんだ。忘れるわけがねえ。それで、榊家がどうしたってんだ…………はあ？ 没落した？ 意味分かんねえ！？ どういうことだよ！？

_____なるほどな。それであそこの首領が殺されてから、息子が跡を継いだと。だけど息子では何百人もいる奴隷を統制することが出来ずに暴動が起きた。ふうん。そうか……あ、米お代わりくれ。あと水も。あ？ 自分で注げ？ ったく。家来の癖にケチくせえこと言いやがって。

　それで、屋敷内に生き残りはなしだって？ それじゃおかしいじゃねぇか。もし皆んな死んだって言うなら、誰がこの話をしてたんだよ……それにあの男が簡単にくたばるとは思わねえが。

　街の奴が言っていた？ それにそいつが言うには屋敷中水浸しで街中の井戸が枯れていただと？ …… そんなの、あの男がやったに違いねぇだろ！ それ以外に何があるんだ。……くそ。やっぱりあいつ、どこに行っても人様に迷惑ばかりかけんだから。ろくでもねぇ奴だな。

_____どこに行くかって？ んなの決まってんだろうが。西の国に言ってこの目で屋敷を見てくんだよ。

　危険？ 村長に怒られる？ んなの知るか。そこら辺の奴に適当に言付けさせとけ。それに俺様は強えんだから何があろうと負けることはねぇよ。

　ついてく？ ……勝手にしろ。その代わり、怒られたって死んねぇかんな！

***

_____やっと来たかお前ら。俺様に追いつけないなんてそれでも侍衛のつもりかよ。

　まあ良いや。それよりほら、見てみろよ…………これがつい数ヶ月前まで西の国で最大の勢力を誇っていた商業の街だって言うんだから驚きだよな。どこもかしこも死体だらけだ。死体数えるよりも、生きてる人間探し出す方が楽かもしんねぇ……お、噂をすれば。

　おーい！ そこのジジイ、ちょっと止まれ！ ちょっと聞きてぇことがあんだ。少しだけで良いから話してくんねぇか。あそこの屋敷のことなんだけど……何者かって？ そうだな。強いて言えば……かみさ……何だよ一葉（かずは）。話がややこしくなるから止めろって？……仕方ねぇな。

　俺様の家族がこの屋敷で働いてたんだ。家を出たっきり帰ってこねぇから心配して来てみれば屋敷は潰れちまってる。引越しでもしたのか？……ああ、そう。大旦那サマが死んじまって、奴隷が暴動を。それで、奴隷の中に生き残りはいるのか？……子供（ガキ）が2人？ そいつらの特徴は？……1人は黒い髪の成人してないやつ。それでもう1人は、白い肌と髪を持つ美しい幼子……別の街の役人に連れて行かれた……そいつらはどっちの方に去っていったんだ？

……ありがとよ、ジジイ。きっとその黒髪の男ってのは俺様の家族だ。早く迎えに行ってやんねぇと。

　？……子供なのに偉いね、だと……！？ ッざけんな！ 俺様は大人だ！ 酒だって飲めんだよ！

_____あのジジイ。俺様のどこを見たら餓鬼に見えるってんだ……おい、何を笑ってやがる！！

_____ったく……どいつもこいつも、俺様のこと馬鹿にしやがって……まあ良い。一葉（かずは）、二葉（ふたば）、作戦変更だ。奏は後回しにして、まずはその2人の子供を探すぞ。