第5話取れない刺
専門学校にいって、学びなおしたいことがあるというのが梨香の退職理由であった。
退職することについて、一切の相談がなかったことは僕のこころをそれなりに傷つけた。
社内ではそれなりに信頼されていたと思っていただけにショックといえばショックだった。
数日が過ぎ、梨香がつかっていたデスクには別の人物が座っている。
彼女が仕事をやめてから、会うことはなかった。
それだけの関係であったといえば、それまでだが、心のこりがないといえばそれは嘘になる。
ご飯はちゃんとたべているだろうか。
趣味にお金を使いすぎ、ろくに食べる物も食べず、いつも同じ服ですごしているのだから。
きっとそんな性格は変わらないだろう。
連絡をとればいいのだろうが、そういう気にはならなかった。
人生の隙間の時間、梨香と僕の人生はわずかに交差したにすぎない。
ほんの一瞬、交差したのだが、その後どんどんと離れていってしまう。
それは仕方ないことだと僕は考えた。
その隙間の時間を共有し、親しくできたのだから、それはそれでいいのだと思った。
ただ異常に馴れ馴れしく僕の名前を呼ぶ声がこころに刺のようにささり、ぬけることはなかった。
隙間の時間 白鷺雨月 @sirasagiugethu
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