第4話さよならはいってくれない。
ファストファッションの店でピンクのスカートを持ちながら、梨香は首をかしげながら、うんうんと唸りながら思案していた。
「これにあうかな。でも派手かな」
小動物のように小刻みに動くその仕草はかわいらしい以外のなにものでもなかった。
「似合うとおもうよ。そんなに高くないし、買ったら」
と僕は言った。
「今月お金ないからなー」
新作のアニメの円盤を買ってしまったので、あまり持ち合わせかないのだという。
「じゃあ、買ってあげるよ」
そのスカートは僕からしたらそれほどたいした金額ではなかった。新入社員である梨香にとってはそれなりに迷ってしまうような額であった。
「えーでも森ちゃん、それは悪いよ」
ぷくっと頬を膨らませながら、梨香は言う。
それがなにかを考えるときの梨香の癖だった。
まるで子供だな。
と思った。
その通り、子供といっても差し支えないほどの年齢の差が僕たちにはある。
彼女は僕を森ちゃんと親しげによぶ。
僕も彼女を梨香と呼ぶ。
そう呼びあうのが、なによりも嬉しくもあり、楽しくもあった。
友達ではあるが付き合っているわけではない。
陳腐で使いふるされていた言い方だったが他になんと呼んでいいかわからなかった。
僕と梨香の関係にはいわゆる男女の関係というのはまったくなかった。
友人とよぶには親しすぎて、彼女というには距離があった。
結局、僕が梨香に買ってあげたのはそのたいして高くもないスカート一つだった。
「ありがとう、森ちゃん」
エヘヘと嬉しそうに笑う彼女の愛らしい笑顔が忘れられないものになった。
「森ちゃんに買ってもらっちゃった」
それから少しして、梨香は仕事を辞めることになった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます