第九話 小さな一歩

「……ハッ!?」


 わたくしは目をさます。そこはフードコートの一席。とっくにアイドルのLIVEは終わっていて、人はまばらになっている。


「ん……いい匂い。……お腹空きましたね。」


 わたくしは香りに導かれて列に並び、特製チキンカレー(小)を注文する。……茄子の素揚げを付けて。


「いただきます」


 口に入れた瞬間広がる香り高いスパイスの風味、甘みと辛みの絶妙なバランス、茄子の香ばしさが良いアクセントになっている。


「……ふふふ」


 思わず笑みが溢れてしまった。まったく、わたくしが考えた完璧な栄養バランス献立計画が崩れてしまいました。


「これもあの男のせいです。責任をとって貰うしかないですね、ピザムライ?」


 わたくしは自身のアカウントを開き、全国の家臣に向けて上意じょういする。


『ねぶり箸狗茶羅くちゃら -公式-

 マジ最悪!甲冑のピザムライに神炉カロハラされたうえ逃げられたんだけど!マナーも末って感じ!

 みんな見つけたら生け取りでDMしてね!褒美をつかわす〜!』


 震えて待つのです。この厄介拓男やっかいたくおことSNSの王、ねぶり箸狗茶羅くちゃらが貴方を逃がさない!





「へっくしゅ!」

「大丈夫ですかピザムライ様!先程の戦闘で神炉離かろりぃが足りなくなり禁断症状が!?」

「城に着いたら推しの恩人として最高の神炉離かろりぃメシでもてなしてあげるから我慢なさいピザムライ!」


 内装まで『生産者の顔面暴力』仕様のお姫様に積まれ、城に連行される俺。


「というか少年、いつの間にお姫様に俺の事情を話したんだ?」

「ピザムライ様があの女に百京号えくささいずしている間に話つけときました⭐︎僕はピザムライ様のモッツァレラですから!」


 いやだからお供にした覚えはないんだが。


「は?ピザで重要なのはチーズよりソースよね?モッツァレラよりトマトソース自称した方がいいんじゃないかしら?」


 ピザの構成要素としてはどっちも大事だと思うが。


「チーズの方が重要ですよ!」

「いやソースに決まっているでしょう!?」

「「どっち!?ピザムライ(様)!」」


 あーもう!


「そんなことはどうでもいい!俺は!早く帰ってあっつあつトロットロのピザが早く食いてぇだけなんだよーーー!!!」


 ピザムライの戦いは(SNSにより個人の特定がすぐできてしまうためそんなに長くならないけど)続くのだった。

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出里張ィピザムライ! 何屋間屋 @nann_ya_kann_ya

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