第十四話 帰還、即ち。
俺とアスの二人は、どこからか湧いてきた魔に蝕まれたヒトたちを沈める、という初戦闘にしてはとても素晴らしい功績をあげた。
その後、熱烈な伝説の勇者信仰者なのか、単にもの見たさなのか解らないが、その騒ぎを嗅ぎつけた王都街の多くの街人に追われた。
それもつい先程、アスとの相性の良さと俺の最高な作戦、言霊行使で切り抜けた。
✣
二人は、良正の【瞬間移動】によって街から王宮へ帰還したのだった。
「――っひゃ〜! 王宮に〜っ、と〜ちゃ〜っく! いや〜、たまんないですな〜。走ってるわけでもなんでもないんだけど〜、疾走感があるアトラクションみたいでね〜っ!」
とアスカは楽しげに調子の良いことを言う、彼の苦労も考えず。
「っ、はぁ、はぁ、はぁ……あのねぇ、お客さん。これ、そういいもんじゃ、ないん、です、よ。激しく、息が、切れる、くらい、に、言の波、使って、つらいん、です、よ……」
と良正は顔中に汗を吹き出し、息を切らしながら疲労感たっぷりに言い放つやいなや、またあっけなくぽくりと
『【天地神明】を使った後に、アスが倒れてる俺を回復してくれたというのに、不甲斐ない、情けない』
彼はそう未熟さを脳内で嘆くが、言の波の総量から考えるとまだ大技と言える大技を出すには結構無理がある。
なら仕方ないか、彼はきっぱり諦めるのだった。
そして、三人と一勇者が付きっきりなら心配ない、と良正はすっかり安心し切って落ち着きを持ち、しばし
………
……
…
『あれ、おかしいな。もう意識戻ったよ? 外部から何も干渉されていない? 何故? 大分時間経ってるけど? もう少しで自然回復しちゃうけど? みんなは何をしてるんだ? も、もう少し待とう』
………
……
…
『っああああああああぁぁぁ! もう待てない!』
「――っざけんなや! 誰も手出しせず起こしもせんのかい!」
我慢の限界を迎えたことで、何故か良正の口から関西弁が出てきた。
彼の出身は東京で全然関西関係ないし、住んでいたことがあったり親戚がいたりなんてこともない。
これは、世にいうエセ関西弁というやつになる。
こんなの生粋の関西人に聞かれたら絶対マズいことになる
そんなことを思っていると、シェイルベルが冷ややかな口調で話しかけてきた。
「遅かったな。このままお前が起きないでいた場合、あと少しで生き地獄にするところだったぞ」
「するところだった、ってお前がしようとしてたんじゃねぇかッ! 何を他人事みたく言ってんだよ、バカヤローッ!!」
シェイルベルに淡々とした口調で鬼のような語群を並べられ、彼は一瞬にして頭が冴えた。
その流れで、良正はいつも通りに軽快なツッコミをする。
そんな彼に対して、シェイルベルはまた話を続ける。
「本当なら動けないお前を大海に転送して溺死させるか、ファンネスに献上してやろうと思っていたが、結果的に思うまでで留まったのだから良かっただろう」
その馬鹿げた内容に、良正はまたツッコむ。
「へー、よかったよかった。ってそれじゃ俺は絶対死んじまってんじゃねぇか! それじゃ
それを見て、またまたシェイルベルは継ぐ。
「思うだけは勝手だろう。実際にはしてないのだから良いだろう。俺の思いに自由はないのか? 思想に自由はないのか?」
両手を大きく広げ、点を仰ぎながら良正に伝える。
「あ、あるよ! 思想の自由はある、そう言やあいいんだろ! なんだよ、起きて早々意地悪く責めてきやがって」
また意地悪な野郎だな
良正はシェイルベルに若干の嫌悪感を抱きながら言う。
「意地悪? この会話がか? これは所詮戯れみたいなものだろう。真の意地悪なんていうのは、こんなことを言うんじゃないのか?」
シェイルベルがそう言って会話を途切らせると、三人衆は部屋の壁際から離れる。
「良正、これが真の意地悪だ」
「【
――【解除】
シェイルベルの合図でミスリルが言霊を解除すると、その奥には異様に広い空間が現れた。
そこは、二人が王都街に出る前まではただの小部屋だった場所。
それが、円形で二階三階まであり、血なまぐささを感じる石造りの空間へと変化を遂げていた。
一階の壁際には四箇所ほど、大きな鉄の檻のようなものがある。
等間隔に配置された数多の石柱に、中心には小さめの円がある。
それは、まるで古代ローマの闘技場、コロシアムのような空間。
構造のどこをどうとっても、良正にはその結果しか得られない。
そう思ったが、良正には一つ思い当たる節があった。
それは、彼が三人から授業を受ける初日のこと。
✣
「本当にお前がやるのか? 俺たちが教えるのでは駄目なのか?」
アスカに直接何かを享受することができないのか、と悲しそうにシェイルベルが言う。
「あぁ、俺じゃなきゃ駄目なんだ。アスは俺が教え導き、支えてやらなきゃ駄目なんだ。きっとアスもそれしか認めない」
良正は出会ったばかりの年下女子のことを、さも物凄く親しい間柄かのように堂々とシェイルベルに話す。
「はぁ、そうか……」
そんな様子にやられたシェイルベルは落胆気味で、どよんとした顔になった。
「シェイルベルのやつはこの調子だが、俺は良い事だと思っているぞ! それは、良正とアスの二人だけではない。俺たちや民も含め、皆にとっても良いことだ! これは共に高め合うことができる、そんな状況ではないか? お前たちなら大丈夫だ! 二人の性格と相性なら、一緒で心配はない!」
「私もそう思いますよぉ。お二人なら大丈夫ですよぉ」
二人の間に、フェルナンドとミスリルの二人もすかさず入り、シェイルベルにどうにか認めさせようとする。
だが、二人の心に偽りはなく、心の底からそう思っているらしい。
その言葉に、その表情に全くブレがなかった。
信頼してくれているなら嬉しいことこの上ない、良正はそう思った。
「ふ、二人がそんなに言うなら良いことなんだろうな! なら、ここは割り切って進んでいこう! では、ここから一週間、良正には俺たちの授業をきっちり受けてもらう。そして、認めるかどうかは最終日の試験で決める」
「はいっ!」
良正とシェイルベルの二人は、互いに違う方向とはいえ腹を決めて前に進むことにした。
漂っていた微妙な空気は、シェイルベルがビシッと言ったことと、良正がそれにできる限りの大声で返答したことで取っ払われた。
ここからが、問題。
「それで、最終日の試験会場だが……ないので、俺たちで作っておこう。最高の舞台を作ってやるから覚悟しておけ」
「お、おう!」
✣
と、こんなやり取りがあったのだった。
きっとシェイルベルの言っていた『最高の舞台』というのがこの
最高のって、こういうことなのか? 確かに格好良さは最高だが、これだとどういうことになるのだろうか? もしかして、殺し合ったりするのだろうか?
良正はその意図が全くもって解らなくて、怖くもあったのでシェイルベルに慎重になって質問する。
「あ、あのー、すみません。これは、どういったことですか?」
「ん? どういったことと言うと、会場完成発表だな」
「最終日の試験のですよね……」
「そうだが、何だ? どこか不満でもあるのか? その通りにつくりかえて見せよう、言ってみろ」
シェイルベルの返答は良正が思っていたものと違った。
朝の一連の話が真実であると再確認したくて、彼はまた質問する。
「いやいや、そういうことじゃなくて……今日の授業は全部なくなったんじゃなかったっけ? 俺の朝の一件で、ね?」
「なくなったな、
「え、今なんと? もう一度お願いします」
何を言われているのか、それは解っている。
解っているのだが、それが上手くのみ込めなくて、もう一度落ち着いて聞き返す。
「良正、お前みたいな輩が解らぬことではないはずだ。なくなったのは
うわああああああああああああああああああ!!
受けたいと思っていた授業がなくなって休日になったのは、本当に休養目的だったのか! 試験を万全の体制で受けさせるためだったのか! ざけんな! 今日は諦めて、明日に目一杯授業を受けて、試験に備えようと思ってたのに。
――こいつら、俺のことを
良正の脳はあまりの衝撃に悲鳴をあげ、全てを激情へ変換する。
待てよ、それなら、今日の授業で教える分はどうする気だったんだ? 確か、前回の授業で最後は本格的な実戦形式で、って言ってたな。
ということは……!
彼は今日の出来事を結びつけ、一つの曲解を導き出す。
――全部、計画。手のひらの上で踊らされていたってわけか
王都街での魔に蝕まれたヒトの襲来も、それで厳しい戦闘を強いたのも。
最後に、街人たちに追われて【瞬間移動】を使わせるところまで。
「俺をなんだと思ってるんだああああああああぁぁぁ!!」
良正は激昂し、赤々と充血した獣のような眼差しで三人を睨みつける。
――ぐっちゃん、これはワナってやつだよ。それでもいいの?
そんな中、険しい様子の彼にビビりながらも、アスカは【以心伝心】を使って考えを伝えてくる。
――ああ、そんなの解ってる。それでも、
男には、行かなきゃいけない時があるッ!!
そう決意を伝えると、アスは静かに言霊を解除し、
「行けーっ!! ぐっちゃーーんっ!!!」
と目に涙を浮かべ、声を震わせながら大きく叫んだ。
まったく、可愛い教え子だな
こんなやつら、絶対勝ってやるよ、アス
良正は柔らかな笑みをアスカに向けて浮かべ、あわせてグッドサインをしてみせるのだった。
✣
もう狙いは解ったぞ、ミスリル、シェイルベル、フェルナンド。
きっと俺のことを怒らせて、本気で試験に望ませる気なんだろう。
挑発に乗って怒ってしまえば、冷静な判断を欠くことが起きかねかい。
本来なら乗らないのが鉄則、定石。
でも、ここで俺はあえて乗ってやろう。
「くそったれがぁぁぁぁッ!! 俺の力でねじ伏せてやらァッ!!!」
「ああ、その調子だ、良正ッ! まずはこの俺、シェイルベルからだッ!!」
休日は流星のように過ぎていき、隕石級の試験が突如落下してきた。
――意気揚々と開戦したはいいが、本当にこの最強三人衆に勝てるのだろうか?
言霊勇者にゃ敵わない!~目覚めたら勇者、の教師になっていた話~ ΛAO @nannan77
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