第11話 ハジマルミライ

目を開けるとツーンと鼻に来る匂いで目が覚めた。

「……トキ?」

ベットの傍らには突っ伏して寝ているトキがいた。

優しく、ぽんと髪にふれる。

ふわふわで、綺麗な黒色をした髪だった。

「ん……クル?」

すっと手を引っ込める。

「クル!起きたか!!心配したんだぞ!」

そう言うと、今まであったことを全て話してくれた。

まず血が足りなくなって、本当に死ぬところだったこと。

この傷を治すためにライやみんなが薬草を取ってきてくれた事。

兎に角沢山みんなに迷惑をかけていたこと。

「……ごめん」

ポツリと言うと、トキは手を握って語る。

「約束して欲しいんだ、こういう危ないことにもうひとりで行かないで欲しい」

切実な目と、悲しみを帯びた声で言う。

「クルが分からないことは俺が相談に乗るから、俺を少しは頼ってくれ」

そう言うと、トキの目から一筋の思いが零れた。

「……わかった」


その後、無事に退院することができ、またいつもの生活が始まった。


少し変わったと言えば、毎日のように人が来るようになって犬舎が明るくなったことだ。


そして少しは人間にも慣れるようにと、トキが犬たちの名前や性格、エピソードを綴ったカードを作り、それを来てくれた人に渡すようにと命じられた。


最初は怖くて、ビクビクしてたけどそういう時にはトキがサポートしてくれてやっと最近は1人でもどうにかできるようになった。


確かに犬たちは人間が理解出来る言語や仕草、食べ物の食べ方など違うことが多くて似ていることがほとんどない。


声も大きく、言うことを聞かないと言って嫌な思い感じてしまう、


けど、飼うと決めたなら最後まで見届けて欲しい。

10年から20年その最後まで暮らして欲しい、その中の楽しいこと、辛いこと、笑い会えたこと、色んな思い出をみんなで作って欲しいんだ。


「こっ……この子はタロウです」

「へぇ!凄いどこでも寝ることが出来るんだって〜かわいい〜」

「ねぇねぇお母さん!こっちの黒い犬もかわいいよぉ!」

「えー!かわいいぃ〜!」


明るい母娘がよしよしと子犬を撫でている。

こんな優しい世界が広がってくれたらいいのになと思うんだ。


だから私は決めた。


同じ気持ちを味わった私だからこそできること。

それは、みんなに幸せな家族を作ることだ。


何が出来るのかは分からない。

きっと、私ができることなんて豆粒にも満たないのだろう。

けどやってみるんだ。自分でどこまで行けるか挑戦するために。

少しでも、みんなの笑顔を増やすために。




────────────────────

『可愛いから飼いたい』

そう言って始まったその生活は最期まで見届けられはずなんです。


あなたならきっとできるから。


ちゃんと愛して上げてください。


うるさいからと言って口輪をさせて閉じ込めないであげてください。


あなたに虐められるために生まれたんじゃないんです、あなたと過ごすために生まれてきてくれたんです。


人間は、傷ついたら元に戻るためには長い時間と、みんなの協力が必要不可欠です。


けどそれは、人間だけの話じゃないんです、犬だって、猫だって、鶏だって、みんな心があるんです。


だからこれだけは忘れないで欲しいです。


みんなで生きよう

みんなで笑おう



オワリ




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野犬少女 れおる @Reoru2829

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