優しい館の住人(作者の欲が詰まった版)

小森

上か下か

 俺の恋人は生活習慣が非常に悪い。睡眠や食事、入浴なんかも忘れる。

 俺の恋人は七歳上だ。恋人なのにたまに子供扱いする。

 俺の恋人はよく「遊んで」いたそうだ。中学生の時に聞いた。一部しか聞いてなかったけど生々しかった。


   ✻ ✻ ✻


「清一さん。俺久しぶりに来たんですよ。少しは構ってもいいと思います」


 俺はバラの剪定を手伝いながら言った。

 俺が大学生になって早一年。俺は上勝から電車で四時間の札幌の大学に進学した。遠いからと学生寮にも入った。それもあって、彼と会える回数は減ったけれど電話で週三、四回繋がっている。

 彼はというと、絵本画家と副業で絵画教室の先生になっている。

 俺は正直嬉しさ半分、嫉妬半分。

 絵本画家になってからいろんな人と関わることが多くなって、その人達と食事をたまにすると聞いている。

 食生活は少し安心だが、彼とたまにだが食事をすることが羨ましいと思う。なんと言ってもその人は「らんかれん」。らんかれんは絵本作家で彼とよく一緒に一つの作品を作っている。その人のことが嫌いなわけじゃない。ただ羨ましい。


「ええと、結利くん、あっちのが終わってからね」


 また後回しにされた。

 彼はずれ落ちたシャツの袖をまたまくって池の方へ行った。

 俺は地面に落ちた葉や蕾を掃いて、植木鉢の花壇の方へ行った。


「いいなぁ」


 魚達はもう死んでいて、植物の栄養となっているけれど、彼に「毎日」愛されているのには変わらない。


 ――俺も恋人として愛されたいなあ。せっかく会える機会が少ないんだからもっとこう、構ってほしい。


 欲張り過ぎだろうな。それにそれを選んだのは俺の方だ。でも週に何回か話したいからとわがままを言ったのも俺の方だ。

 俺は植物の様子を見た。雑草は生えていなかった。水やりを終え、清一さんに報告した。


「清一さん。終わりましたよ」

「うん」

「終わりましたよ」

「……」


 本人は俺が言いたいことをわかったうえで躊躇っているのだろうか。何か、これは不安になってくる。すぐに解決しないと後々気まずいことになりそうだ。

 俺は清一さんの手をゆるく引っ張った。


「えっ?結利くん?」


 彼の力なら簡単に振り解ける強さなのに、彼は俺に引かれるがまま、家へ入っていった。俺が手を引っ張っていたせいか、少しもたもたしながら靴を脱いでいた。

 リビングにつくと手をくっと引いて、肩を押し清一さんをソファに座らせた。

 身長は越せても、見下ろすまで俺は高くないのでこういうのはこの前セックスしたときぶりだ。

 その時の彼の表情が脳裏に浮かぶ。


「へ?」


 清一さんはうっすらと頬を赤くし、俺を見上げる。


 ――あぁ、これは、まずい。


 俺は清一さんの目の前で膝をついて目線を合わせ、彼の両手を握った。

 変な気は起こさぬよう、彼がたまにする子供扱いを真似たら、少し冷静になれた。


「清一さん。なんで構ってくれないんですか」

「……庭の手入れ、まだだったから」


 彼は自分の膝を見て言った。

 彼がそう言うならそうなのだろう。


「それはまぁ、わかりました。じゃあ、清一さん、今日一度も顔合わせようともしませんでした。それはなぜですか」

「それは……」


 ――ん?手が熱い。俺のかな。違う。


 俺は彼の頬に手を添えてそのまま顔を上げ、髪も上げた。さっきよりも赤くなった顔。それ以上に耳が赤い。

 俺は清一さんの足を挟むように膝をソファについた。

 手で顔を固定しているから常に上からの視点。彼が本気で拒まない限り、唇にすぐに触れることができる。


「清一さん、キスしたいです」

「う、うん」


 びくっと肩を揺らして、目線を泳がせて恐る恐る目を閉じる。睫毛は震えていて、キスを強請るみたいで可愛い。二七歳とは思えない。前髪、短くしてもらって良かった。

 まぁ、本人もそこまで前髪にはこだわりはなかったみたいだが。

 この距離だとすぐにできるけれど俺はしなかった。

 彼は不審に思い、恐る恐る目を開けた。


「??」

「今はしませんよ。『それは』の続き、教えてください」


 口をパクパクさせ慌てふためいた。

 彼に質問するときは強気でいたほうが良い。いつもはぐらされるから。それで中学生のときどれ程苦労、はしていないな。でも、もやもやはしていた。


「――るとき……かなって」

「え?」


「だから、その。次……セックスする時どっちが上なのかなって。それで考えてて、顔、合わせづらくなってて」


 思わず口をあんぐりさせた。

 俺がここに来る前にそんなことを考えていたのか。それで顔を合わせづらかったのか。

 構ってくれなかったことも、らんかれんとの食事もなにもかもどうでも良くなった。


「大の大人がこれって、あぁ、もう、呆れただろう」

「いいえ!全く!」


 呆れるなんてもっての外。さっき抑えていた興奮がまた押し寄せてきた。なんとか今は抑えるべく、と考えたが今は一度軽いキスを。

 彼の目は潤んでいた。悪いことをした感じだ。

 また床に膝をついて手を握る。指先からトクトクと鼓動が伝わる。


「結利くん。初めての時は僕が上だっただろう。でも二回目は結利くんが上、だった」

「はい?」

「えっと僕、遊んでた時、ずっと上で、下になっても、ちゃんと君のこと気持ち良くできてたのかなって。次、また下になったときとかも」


「あああああ!!言うんじゃなかった!言うんじゃなかった!」


「せ、清一さん、落ち着いて」


 彼は取り乱して手で顔を隠そうとしたが、俺は手を抑えた。

 前髪はそれで一瞬にして乱れ、彼の顔は真っ赤になり眉間に皺を寄せていた。ほんの少しの抵抗が可愛い。

 俺も今とっても顔が赤いと思う。何か、恥ずかしいに似た何かだろう。


「つまり清一さんは、この前まではずっとタチだ――」

「タチって、どこで覚えてきたの!?僕教えたっけ?」

「えぇ!?」


 あぁ、もうきっと、これを他人が見たら笑うだろうな。男二人顔を真っ赤に染めて慌てふためくなんて。いや、会話的に絶対に他人でも家族でも見せられない。


「――ふっ、ふふふっ」

「何、結利くん」


 ムスッとした顔で彼は聞いた。


「だって、悩んでたことが馬鹿らしくなって、幸せだなって思って」

「……そうだね」

「します?俺、清一さんならどっちでも気持ちいいですよ」


 もう、興奮を抑えるのも限界だから彼を誘う。


「じゃあ、下で」



 〜 〜 〜



 あとがきもどき


 あとがきがどこに書くのか、そもそもあとがきを書くスペースがあるのかわからなかったためここに書きます。ごめんなさい。

 性描写があるとしましたが、いっさいおせっせはしておりません。ただ、この会話って大丈夫なのか?と思ったからしただけです。

 ごめんなさい。

 でも私は後悔はしていない。なぜなら、二人のキャッキャウフフでいちゃいちゃなものを書けたから!

 ここまで読んでくださった方ありがとうございました。拙い文章ですが、本編も続くのでよろしくお願いします。

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優しい館の住人(作者の欲が詰まった版) 小森 @0929-komori

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