第20話 未来に向けて(終)

 その後、二人で色々と話し合ったのは言う間でもない。俺の部屋で週末に限らず平日でも店が終わった後で話し合った。香織は

「高梨さんさえ嫌で無ければ、私は一緒に住みたいです。そして許されるなら結婚したいです」

 香織は戸籍上は、普通の人間としての状態だ。法的には何の問題もない。

「いっそ、籍を入れようか。そして一緒に住んで落ち着いたら式をあげようか。やはり花嫁衣装は着たいだろう。どっちが良い?」

 今の段階では話が速いが、それでも尋ねてみると

「白無垢も良いけど、どっちかと問われれば、ウェディングドレスですね」

 少し恥ずかしげな表情を浮かべながら、そんな乙女心を吐露した。

「よし会社にちゃんと報告しよう」

 俺は香織と一緒になることを決意した。酒井専務にそのことを報告すると、意外なことに大層喜んでくれた。

「いや、色々と言ったが一番理解してくれる君と一緒になってくれれば我々としても願ったり叶ったりだ」

 そう言っていたのが印象的だった。この時俺は、これはもしかして会社側の予定調和だったのでは無いかと考えた。それも充分にありえるが、今やそんな事はどうでも良い。俺は香織と一生付き合う決心をしたのだ。そこに迷いはない。

 驚いたのは、二人の住む場所だが、会社が用意してくれると言う。三田博士は

「いや、仕事以外の時間は干渉はしないが、通信の弱い地域に住まわれると、何かあった時に連絡が取りにくいので、最低でも5Gが通じてる地域にさせて貰った。監視カメラなどは置かないが、緊急連絡用の連絡装置は取り付けさせて貰う」

 5Gだと通常の光回線より光速な通信が出来る。物件はマンションで、会社の関連会社の物件だそうだ。家賃は只と言うことだ。カメラ等は無いと言っていたが、それを鵜呑みには出来ない。カメラという形では無くとも、何らかの装置は置かれていると考えるのが普通だろう。

 部屋は3LDKで八畳のキッチンダイニングと八畳のリビングに六畳が二部屋だ。どちらかが寝室になる。仕事場からも遠くないので香織は

「場所と言い、部屋と言い悪くないですね」

 そう言って喜んでいた。俺は

「これだけの部屋の家賃が只という事は、それだけお前に会社の存亡がかかっているということなんだな」

 それは確かに事実だったようで、緊急連絡装置を置きに来た研究所の研究員が

「この部屋に5のルーターを置いて置きます。緊急連絡装置は研究所にも通じますがこのルーターは普通にインターネットに通じていますので、PCやスマホでも利用出来ます」

 それを聞いて香織が

「利用料金は?」

「無論無料というか会社が持ちます。お二人には会社の存亡がかかっていますからね」

 そう言ったので香織が

「私の義体の成功にですね」

 そんな意味のことを口にすると研究員は

「香織さんと呼ばせて戴きますが、あなたから得られるデーターは非常に貴重で世界の研究所に送られています。反対に各国の研究所からはその国で得られているデーターを我々は受け取っています。だから前回のアップデートもその賜物なのです。会社は今後本格的なアンドドイドの生産に乗り出します。最初は単純作業だけしか出来ないでしょうが、やがて危険な作業などは人に替わって行くことが出来るようになると思います。その為には香織さんは重要なのです」

 真顔になってそんなことを言って帰って行った。緊急連絡装置はキッチンの壁に取り付けられていた。これは何かあった場合の非常用ボタンと部屋の温度が上がった場合に作法するセンサー等色々なセンサーが入って居るという。からなっていた。他にも機能がある。

 期日を選んでお互いの荷物を運び込む。それと平行して香織の両親に挨拶をする。俺の肉親は誰も居ないので挨拶はそれだけだ。香織の両親は、まさか義体となった娘に貰い手が現れるとは思っていなかったらしく、俺がオッサンなのにも関わらず大層喜んでくれた。その後役所に婚姻届を出しに行った。職員の

「おめでとうございます」

 という言葉が妙に嬉しかった。

「今日からは高梨香織ですね。宜しくお願いします」

「こちらこそ宜しく」

 部屋に帰って来て、お互い向き合って頭を下げた。

 これからどうなるのかは誰にも判らない。聞いた話では欧米ではセクサロイドが密かに発売されたそうで、富豪家の間では中々の人気だそうだ。勿論それに我社の技術が入っているのは言う間でもない。

 更に数年後には日本でも単純作業用のアンドドイドが発売された。途方もなく高価だったが、人件費と比べればそれほどでもないという考えから結構な注文が入ったそうだ。現場に投入されたアンドドイドからも色々なデーターが入る。それは香織の義体にもフィードバックされる。定期的に香織の義体は交換され、その度に目覚ましい程の進化が伺える。もはや香織を見て義体だと思う者はいないだろう。香織の振る舞いも進化していた。

 だが、たったひとつだけ困ったことがある。それは香織が何時までも若々しいことだ。いずれこれも解消されると俺は思っている。

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女料理人香織 まんぼう @manbou

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