「ねぇ、今夜暇?」そう言って、彼女は僕の顔を覗き込む
南国アイス
それは、彼女からの提案だった
「太陽が昇ると何ができる?」
えー、わかんなーいと彼女はいう。
「正解は影でしたー。」
「じゃあさ、雪が溶けると何になる?」
「だから、わかんないったらー」
彼女はちょっと不機嫌になる。
「春になるんだよ」
彼女のちょっと不機嫌な、ふてくされた表情が好きだった。半分からかうように言葉遊びをしていた高校の帰り道。
お互い違う中学校を卒業し、違う高校に通っていた僕らだったけど、地元が同じ彼女は降りる駅も同じ。
時計の針は夕方の六時半を回っていた。
彼女の家の門限は夜七時。
それを過ぎると、お父さんにみっちり怒られるそうだ。
だから……そろそろ帰り支度。
一緒にいられる残り時間が少なくなるとなんだか急に寂しい気持ちになってしまう。
「ねぇ、今夜暇?」
そう言って、彼女は僕の顔を覗き込む。
「あぁ、別になにもないよ」
「じゃあさ……」
彼女からの提案だった。
今日の夜、深夜一時に学校に忍び込もうって。
両親は十一時にはとっくに寝てるから大丈夫と言って、僕らは深夜の中学校で再開することになった。
なんだか妙にロマンチックな会い方だなと思って、家に帰ってからも今夜のことばかり考えていた。
零時半を回った。
家の電気は全て消灯し、自室のドアを出ると親父のイビキが寝室から聞こえてきた。
僕は革のライダースジャケットを羽織ってマフラーをぐるぐる巻いた。二階の自室から音をたてないように忍び足で階段を降り、玄関のドアを静かに閉めた僕はニット帽を被って学校を目指す。
吐く息が白い。
十二月の深夜。寒いので自転車のペダルはゆっくり漕いだ。スピードを出しても寒すぎて耐えられそうにない。
校門に到着し、学校を見渡した。
ここは彼女の卒業した中学校だ。
深夜の学校は容赦ない静けさに包まれていた。
彼女は本当にくるのだろうか?
一人だとちょっと怖いくらいだ。
手袋を少しずらし、腕時計を見ると一時十五分だった。
その時、彼女の姿が見えた。
二人で破れたフェンスの隙間から学校に忍び込み、風にあたらない場所を探した。
深夜に女性と二人きりで過ごす時間。そして深夜の学校というロケーションだったせいか、ものすごくドキドキしていた。
『カチャ』
体育倉庫のドアに鍵がかかっていなかった。
あっけなく開いた体育倉庫の中に入ると、少し埃くさかったけど体育マットみたいなものを敷いて、僕らはそこに座っていろいろと話した。
一時間くらいおしゃべりした後、急に話すことがなくなった。
いくら風が入らないからといって、十二月の深夜なのだ。寒くないはずがない。
手をつなぎ、お互いの温もりを感じた。彼女の肩に腕を回すと彼女も僕の肩に寄りかかった。
僕は彼女にキスをした。
そのまま初エッチした。
十六歳の冬だった。
彼女は未だ童貞の地元の男友達の彼女だった。
「ねぇ、今夜暇?」そう言って、彼女は僕の顔を覗き込む 南国アイス @icechan
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