そして




 錆びたナイフだけが、そこに残された。


 それはたしかに何度も血に染まった。しかしそのやいばは、だれかを好んで傷付けたのだろうか。以前に彼や彼女を追い詰めた言葉たちよりも、尖っていたのだろうか。





 役目しごとを終えたナイフは朽ちていく。聞こえるのは必要最低限の呼吸だけ。声をあげることもなく、静かに、静かに消えていく。




 そこにはもう、だれもいない。

 そこにはもう、何もない。


 だからこれからはもうきっと、だれも哀しむことはない。



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優しいナイフ 久寓 @30TII

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