Smile Affection Offline

「こうして、レベリングしまくった陽向さんを中心とした、詩葉さん抜きのパーティーで魔王を倒して、雪坂一同は現実に戻りました……って、所かな?」


 希和がルーズリーフに書き加えた結論を、詩葉と陽向はしばらく見つめて。

「……私、だいぶ頭悪くないですか?」

「詩葉さんが危なかったら、連れ去って閉じ込めるくらいするでしょ?」

「しますね、けどもうちょっと話し合いとか……ああ、うん、詩葉がそんなことになってたら頭回らないかもですね……」

 唸り続ける陽向と。


「というかさ。私、何も活躍してないや……あははははは!」

 腹を抱えて笑い出す詩葉と。


「……やっぱり陽向さんバーサクにしすぎたよなあ」

 首を捻る希和と。


 異世界での大乱闘……の想像から現実に帰ってきた、三人の姿だった。



 始業式を目前に控えたその日。

 次の文化祭で披露するミュージカルの内容を練るために、三人は陽向の家に集まっていたのだ。

 会議がひと段落したところで、ふと詩葉が呟いた。

「今回の劇、これから部員のみんなをファンタジーのお話に当てはめていくじゃん? 他の世界観でもやってみたら楽しそうだよね」

「確かに……異世界転生ネタとか、絶対に盛り上がるよね……RPG好きな人も多いし、誰がどのジョブとか」

 希和の答えに、女子二人は揃って怪訝な顔をする。どうやら、馴染みのない遊びだったらしい。


「私もヒナちゃんもほとんどゲームしたことないんだけどさ、ジョブってどういうの?」

 詩葉の質問に、希和は記憶を探る。

「作品によるけど、おなじみのだと戦士と魔法使いと弓使いと、みたいに色々……」

「あ、まとめたページとかありますね」

 パソコンで検索をかけた陽向。

「へえ、とりあえずヒナちゃんは魔法使いタイプだよ」

「学力すごいし、攻撃系でしょうねえ……前から思ってたけど、陽子さんには二刀流とか似合うと思うの」

「詩葉は私だけのお姫様だよ」

「いやそうじゃなくてね……ああでも、ヒーローっていい響きだよね……」


 などと、部員をジョブに当てはめる遊びが始まり、ずるずると続くうちにここ最近の部員すべてに当てはめてしまい。


「ここまでくると、なんか冒険させてみたくならない? まれくん設定とか考えるの得意でしょ」

「まあ好きだけど……部活ごと転生、魔王を倒すまで帰れない、とか」


 王道の冒険譚を考え始めた所で、陽向が急にリアルなことを言い始める。

「ダメだ、詩葉が危ない目に合うの耐えられない」

「いやヒナちゃん、ヒーローなんだからさ」

「ヒーローだからって危険を冒さなきゃいけない訳じゃないもん!」

「じゃあ魔王に怯えている住人はどうするのさ……あ、けど切り口としては面白いか」


 そうこうするうちに、「英雄を連れ去る側と追いかける側」話になってしまったのだ。


 

「……という、血沸き肉躍る冒険の妄想も楽しかったけどさ」

 陽向の家を出て、並んで歩く途中。空を見上げながら、詩葉は呟く。

「けど?」

「今、みんなといる世界が、私は一番好きだよ」


 衒いもなく言い切るその声と表情に、また頬が熱くなる。


「……僕もだよ。そう言う君の笑顔が、一番の魔法です」

 

 そんな言葉で終わる四月の始まりだったから。きっと、素敵な一年になる気がした。

 

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Rebellion's Noah-雪坂高校異世界戦記- いち亀 @ichikame

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