Smile Affection Offline
「こうして、レベリングしまくった陽向さんを中心とした、詩葉さん抜きのパーティーで魔王を倒して、雪坂一同は現実に戻りました……って、所かな?」
希和がルーズリーフに書き加えた結論を、詩葉と陽向はしばらく見つめて。
「……私、だいぶ頭悪くないですか?」
「詩葉さんが危なかったら、連れ去って閉じ込めるくらいするでしょ?」
「しますね、けどもうちょっと話し合いとか……ああ、うん、詩葉がそんなことになってたら頭回らないかもですね……」
唸り続ける陽向と。
「というかさ。私、何も活躍してないや……あははははは!」
腹を抱えて笑い出す詩葉と。
「……やっぱり陽向さんバーサクにしすぎたよなあ」
首を捻る希和と。
異世界での大乱闘……の想像から現実に帰ってきた、三人の姿だった。
*
始業式を目前に控えたその日。
次の文化祭で披露するミュージカルの内容を練るために、三人は陽向の家に集まっていたのだ。
会議がひと段落したところで、ふと詩葉が呟いた。
「今回の劇、これから部員のみんなをファンタジーのお話に当てはめていくじゃん? 他の世界観でもやってみたら楽しそうだよね」
「確かに……異世界転生ネタとか、絶対に盛り上がるよね……RPG好きな人も多いし、誰がどのジョブとか」
希和の答えに、女子二人は揃って怪訝な顔をする。どうやら、馴染みのない遊びだったらしい。
「私もヒナちゃんもほとんどゲームしたことないんだけどさ、ジョブってどういうの?」
詩葉の質問に、希和は記憶を探る。
「作品によるけど、おなじみのだと戦士と魔法使いと弓使いと、みたいに色々……」
「あ、まとめたページとかありますね」
パソコンで検索をかけた陽向。
「へえ、とりあえずヒナちゃんは魔法使いタイプだよ」
「学力すごいし、攻撃系でしょうねえ……前から思ってたけど、陽子さんには二刀流とか似合うと思うの」
「詩葉は私だけのお姫様だよ」
「いやそうじゃなくてね……ああでも、ヒーローっていい響きだよね……」
などと、部員をジョブに当てはめる遊びが始まり、ずるずると続くうちにここ最近の部員すべてに当てはめてしまい。
「ここまでくると、なんか冒険させてみたくならない? まれくん設定とか考えるの得意でしょ」
「まあ好きだけど……部活ごと転生、魔王を倒すまで帰れない、とか」
王道の冒険譚を考え始めた所で、陽向が急にリアルなことを言い始める。
「ダメだ、詩葉が危ない目に合うの耐えられない」
「いやヒナちゃん、ヒーローなんだからさ」
「ヒーローだからって危険を冒さなきゃいけない訳じゃないもん!」
「じゃあ魔王に怯えている住人はどうするのさ……あ、けど切り口としては面白いか」
そうこうするうちに、「英雄を連れ去る側と追いかける側」話になってしまったのだ。
*
「……という、血沸き肉躍る冒険の妄想も楽しかったけどさ」
陽向の家を出て、並んで歩く途中。空を見上げながら、詩葉は呟く。
「けど?」
「今、みんなといる世界が、私は一番好きだよ」
衒いもなく言い切るその声と表情に、また頬が熱くなる。
「……僕もだよ。そう言う君の笑顔が、一番の魔法です」
そんな言葉で終わる四月の始まりだったから。きっと、素敵な一年になる気がした。
Rebellion's Noah-雪坂高校異世界戦記- いち亀 @ichikame
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