愛と激闘のクライマックス

 戦闘の火ぶたを切ったのは、紅葉のコールだった。

「フリュール!」

 主の呼び声に応じ、付近に潜んでいたグリフォンが陽向へと飛び掛かる。身を翻して躱した陽向は、飛び去っていくグリフォンに風魔法で反撃。突風に煽られながらも、距離を取るグリフォン。


 その間に、部員たちは陣形を整える。廃墟の家屋を掩蔽に使い、接近戦が可能なメンバーは近い位置で取り囲み、遠距離攻撃や支援を担当するメンバーはさらに距離を取る。

 攻略コンセプトは相談済だ。陽向に魔法を撃たせたら凶悪すぎる、侮れないが武器攻撃の方がまだマシだ。よって、詠唱の余裕を与えることなく次々と接近戦を仕掛け、動きを封じた所で倉名または沙由が催眠を仕掛ける。


「直也、福坂!」

「おう!」

「了解」

 陽子の合図に、中村と福坂が応じる。大盾を構えて突進する中村と、その後ろを駆ける陽子と福坂。さらに遠くから、春菜が治癒魔法の詠唱に入る。


 その突進を、陽向の炎魔法が迎え撃つ――他の魔法担当に先んじて無言詠唱を覚えている彼女だが、それにしても発動が早い。物陰から伺う希和の脳裏を、嫌な予感が駆け巡る。


「ぐわあっ」

 爆炎のエネルギーに、大盾ごと吹き飛ばされる中村。体高三メートル近い猪の突進すら抑えてみせた中村の馬力を、陽向は軽々と上回ってみせた。倒れ込む中村に、春菜の治癒。

 中村に守られていた二人は、巻き添えを避けて二手に分かれ、別方向から陽向へと襲いかかる。魔法では間に合わないタイミング、しかし。


「はいっと」

 矢のように槍を突き出した福坂を、陽向の薙刀が捉える。その回転の勢いに乗せて、二振りの曲刀で襲いくる陽子を薙ぎ払おうとするが。

「マジかよ!」

 陽子は瞬時に攻撃を中断、スライディングで薙刀を避けて仕切り直しを図る。初撃は失敗したが、随一のスピードを誇る陽子こそ接近戦では有利――事実、陽子は瞬く間に次撃に転じたのだが。


「え、」

 陽向は斬撃を避けも防ぎもせず、あえて身体に受けてから、陽子を蹴り飛ばした。いくら異世界で身体能力が向上しているとはいえ、痛覚は残っているのだ。正気で思いつく戦術ではない。


 三人が捌かれていく間にも、他の部員は次の攻め手を整えていた。

「清き結晶よ、白き空より大地に恵みを、しろしめせ」

 和可奈の氷魔法。降り注ぐ雹に打たれ、陽向の動きが鈍る。さらに別の角度から結樹の矢が襲い来るが、こちらは回避。絶好のタイミングで仕掛けられた真田の斬撃も受け止めてみせた。

 その反応速度と武器の圧に、希和の嫌な予感が確信に変わる。離れている間に、相当にレベルが上がっている。


賢者の瞳Come, eyes of wisdomを……ダメか」

 ステータスを覗くべく汎用解析魔法を使ってみたが、弾かれた。外部からの干渉を遮断するスキルを常時発動しているらしい。


「お願い、力を貸して。ケトレ!」

 由那が呼び出したケルベロスが、戻ってきたグリフォンと共に陽向を挟撃する。さらに、沙由が悪霊を使い、陽向の魔法発動を阻害。

 

 その隙に、希和は仲間へ呼びかける。

「ステがヤバいので、タッチで確かめたいです!」

 倉名から応答。

「足場に干渉して援護する。香永、隙を作って」

「オーライお兄! キヨ、敏捷よこせ」

 清水が香永へと加速魔法を掛けている間、藤風からも声がかかる。


「ウチも出る、ちょっと待って――ガッツ&マッスル!」

 筋力と耐久力を強化するステップを踏んでから、藤風はゴーサインを出す。頷き、希和は走り出す。


「土壌、反射率増大――変化alter

 陽向の足元の地面が鏡のように変化し、日光を反射する。たまらず陽向が目を閉じ、立ち位置をずらしてから目を開ける――そのとき既に、希和たちは目前に迫っていた。

 陽向の薙ぎ払いを、香永の斧が受け止める。さらに、藤風が宙を舞いながら繰り出した蹴りが、陽向の姿勢を崩した。


賢者の掌をCome, palm of wisdom

 詠唱し。そこに触れるべき人に内心で詫びながら、陽向の頭に掌を当てる。遮断も通り抜ける、精密解析魔法――拾えた。

「こいつ――!」

 陽向の蹴りが希和を捉えた。痛みに呻きつつもその場を転がり、読み取った情報を確認し――。


「ちょっと、みんな、ストップ、一旦休戦!」

 手を振って呼びかける希和に、味方の困惑した視線と、陽向の怒りの視線が刺さる。

「なんですか今になって、私と一緒に説得してくれるんですか!?」

 薙刀を振りかざす陽向の前に、滑り込む勢いで土下座。

「話を聞いてください!」


 あまりにも低い姿勢に面食らったのか、陽向は黙り込む。

「ありがとう陽向さん……えっとだね、君のレベル、90越えてるんだけど」

「ああ、そういえば……近くに雑魚のねぐらが集まっていましてね。皆さんが邪魔しにくる前に強くなろうと思って、潰して回っていたんですよ。いやはや、この辺は効率いいです」


 魔王もビックリの大虐殺だった。

「それでだね。レベルに応じた知力の増大だけじゃなくて、魔力をブーストするスキルとか、高威力の魔法とかを習得できるみたいで」

「……そうなんですか、見慣れないのは保留してたんですが」

「僕いないと詳細は分からないしね……まあ、概算した上での結論を言うと。

 陽向さん、君は聖剣以上の戦力になれそうです」



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る