Spooky Halloween㉓
11月1日 日中 病室
“目が覚めれば病院だった”なんてドラマではよく聞く話だが、まさかリオンは自分がそうなるとは思ってもみなかった。
「リ、リオン! よかった・・・! 目が覚めたのね」
立ち会ったのは母親だった。 森で倒れていたところを発見され、そのまま病院へ運ばれたらしい。
―――無事に帰ってくることができたんだ。
―――いや、そもそも、全てが夢だったのかもしれない。
窓からは穏やかな風が吹き込み、虫の鳴き声がのどかに入ってきていた。 妖怪たちの夜からあまりにかけ離れた今、それが現実であったと示す証拠は何もない。
―――夢だったとしたら、中々に大作だったな。
―――もしかしたらアンジュも、同じ夢を見ていたりして。
おそらくアンジュと出かける約束をして、森に迷い込んだところまでは現実だろう。 森で倒れていたことからも、そこは間違いない。 そう考えると、アンジュの安否が無性に気になった。
「ねぇお母さん。 アンジュは? もしかして、俺と一緒に森で倒れていたりした?」
「・・・? いいえ、倒れていたのはリオン、貴方だけよ」
僅かな間。 そこに違和感を感じたが、今は自分が回復しなければどうしようもないと考えることにした。
―――・・・まぁ多分、全部俺の夢だけの話さ。
だが――――その楽観的な考えが、裏目に出ることになる。
「リオンくん、よく来てくれたわね。 ・・・え? いや、ウチに娘はいないけど」
外傷もなく検査でも問題がなかったリオンは、翌日には退院した。 そのまますぐにアンジュの家へ向かったのだが、そこで驚くべき事態に直面する。
「いやいや。 おばさん、冗談は止してくださいよ。 アンジュですよ?」
「アンジュ・・・。 ごめんなさい、知らない名前だわ」
「・・・は? いや、何を言っているんですか? 娘さんの名前も忘れたんですか?」
慌てて確認するも、家を間違ったということはない。 そもそもアンジュの両親とは、面識があり仲もよかった。 だから間違えるはずがないのだ。
「そうは言ってもねぇ。 私たちには、残念なことに子供ができなかったから・・・」
「・・・アンジュがいなかったら、どうして俺はおばさんと親しくしているんですか?」
「それもそうね。 リオンくんとは、どうして親しくなったんだっけ・・・?」
「・・・もういいです」
それからも確認して回ったが、誰一人としてアンジュのことを憶えている人間はいなかった。 以前、出かけた際に撮った写真も自分一人が写っているばかりで、アンジュの姿はない。
―――どういうことなんだ、どういう・・・?
もうリオンには、何が真実で何が嘘かもよく分からなくなっていた。 ハロウィンの日のことを誰かに話したところで、誰も信じやしないだろうということも分かっている。
「ここが、俺が倒れていた森か」
手掛かりはもうこの森にしかないと確信していた。 もう一度、あの奇妙な場所へ行くしかないと。 リオンは意を決して、暗い森へと足を踏み入れる。 あの時の言葉を、固く心に誓って。
『なぁ、アンジュ。 もしお前が一人いなくなったら、俺は命を懸けてでも迎えに行くよ』
その後、森へと入ったリオンの姿を見たものは誰もいなかった。
いや、リオンのことを憶えている者も誰もいなくなった。
これが――――終わりのない、不気味な物語なのである。
-END-
Spooky Halloween -スプーキー ハロウィン- ゆーり。 @koigokoro
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