第9話 帰路


 東京に向かってハンドルを握る。北上するときよりも体に力が入る。

 ほんとはこのまま北上し続けたかった。でも、それは先にとっておくことにする。

 藤巻は東京に戻っても先輩たちのように転職活動はしないと決めた。

 リストラされてもいじめられても要領が悪いと笑われてもかまわない。

 いざとなったら辞めればいいだけだ。北上するまでそうは思えなかった。追いつけられる前に逃げることばかり考えていた。

 旅に出て本当に良かったと藤巻は思う。

 スマホが音をたてる。

 とりあげてみると、福島のパチンコ男からラインが入っていた。

 もう家に着いたか?

 男たちと別れるとき、自分はまっすぐに帰ると言ったのだ。

 さらに北上すると言えば、そんな時間があるならもう一晩泊まっていけと言われるに違いない。そう思ってついた嘘だった。

 福島のカップルの家に立ち寄って帰ろうか。

 二人が驚いて笑う顔が浮かんだ。

 でも、すぐに止めようと思う。

 あそこに行くのは東京に負けたときだ。あるいは、東京に平気になったときだ。

 そんなときが自分に来るのだろうが。強く鈍感になれるのだろうか。 

 マッサージ女の言っていた言葉を思い出す。

 なんでも、結局は平気になるものよ。

「なんでも、結局は平気になるものよ、か」

 口に出して言ってみるが、まだまだいろんなものにこだわっている自分に気づき、藤巻は苦笑した。

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藤巻くん、北上する 梅春 @yokogaki

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