1-010.エピローグ

「あ~だめだ。もう一歩も動けないぜ」


 桐須さんの声が隣で聞こえた。

 目を覚ますとヴィレの淡い碧色の光が網膜を刺激する。


「僕たちは・・・」


 まるで長い夢を見ていたようだ。夢うつつの状態で声を発する。


「勝ったに決まってんだろ。忘れたのか?」

「そっか」


 腕で瞼を覆いたくて腕を持ち上げようとしたけれども腕が動かない。いや、体全体が動かない。まさに指一本動かせない状態だった。寝返りもうてない。一回目の合体でも酷かったんだ。ましてや二回目じゃこうなっても仕方がない。首から上を動かすので手一杯だ。


「二人のおかげで危機を乗り越えられた」

「でも戦いは続くんだろ」

「アニール星人が諦めない限りは」


 疲れる事実を受け止めながら。


「・・・ヴィレ。僕は、本当はヒーローの相棒になりたかった。大樹の活躍を一番側で見続けていられる相棒になりかったんだ。でも大樹は僕にヒーローになってほしかったんだと思う」


 そんなことを口にした。


「大樹が貫志を私の元へ遣したことを考えるとそうなのかもしれないな」


 バ~カとケラケラと桐須さんが隣で笑った。


「相棒がヒーローじゃないなんてそれは当人だけの思い違いだ。一緒にヒーローと戦って、誰かを救う人間は傍(はた)から見たら同じヒーローなんだぜ?」


 面白い答えだった。またなにかの作品の引用だろうか?


「それ、何て作品?」

「あたしの言葉」


 なるほど。視点を変えれば結局僕はヒーローだったのか。でも。


「ごめん。今回は考えるヒマもなくてただがむしゃらだった。終わってみて気が抜けてから、ふと思ったんだ。僕はヒーローになれない」


 ここ三年間頑張りもしたけど。僕のヒーローは大樹で。僕は大樹にはなれない。今回のことでよく思い知った。一度負けて。ピンチになった僕らを引っ張り上げた桐須さんのほうがヒーローだ。


「もし貫志が相棒でいいって言うなら、あたしがヒーローになってやる。相棒としてついてくればいい」

「なるほど。さっきの言葉通りなら。僕はどちらでいてもヒーローってわけだ」


 なれないヒーローにならなくても結局別のヒーローになってしまう。


「違いない」


 肯定するヴィレの声は笑いを含んでるように聞こえた。


「それにさ。貫志は分かってないみたいだけど。大樹って人の言いたかったことあたしには分かるぜ」


 僕にはわからないこと?


「ヒーローから見たら相棒は常にヒーローの窮地を助けてくれるヒーローでもあるんだぜ?」


 何の曇りもない澄んだ言葉が胸にすとんと落ちる。目からうろこが落ちた気分だった。


「なるほど。その理論なら私にとって貫志はヒーローだな」


 僕が大樹と同じヒーローだと認めたヴィレの言葉は大樹のもののように聞こえた。


「それで貫志はどうする?」


 意地悪な桐須さんの問いかけに僕はふと考える。

 少なくとも僕はまだヒーローじゃない。

 そして、どんなヒーローになるかも分からない。


 ブブブ・・・


 右腿。感じた振動。携帯が鳴っている。

 電話に出られるだろうか?

 右腕に力を込めると持ち上がった。時間経過で徐々に回復してきていた。

 正直まだ腕を動かすのもしんどいので誰からなんて確認もせずに電話に出る。


「はい。もしもし」


 母親からだった。

 両親ともに無事だったことを知ってほっとする。

 なんでも僕が大樹との約束を果たしに出かけたことから、あっちはあっちで懐かしくなって大樹の両親に会いに行ったようだ。大樹の実家はこの裏山に近い。見えないところでまた大樹に救われた気がした。


「それで?大樹君があんたに託したもの受け取ることはできた?」


 思えば大樹が僕に本当に託したものは何だったのか?

 僕は何を受け取ってしまったのだろうか?

 託された約束は果たした。

 でもその先で託されたものは。

 託されたのは志半ばで倒れたヒーローが残したヴィレというヒーローになれる権利ちから

 そして思えばそれとは別に僕はその意志まで受け取ってしまったように思う。

 母親からの問いかけに僕は目を閉じて澄ましたようにさらりとそれを口にした。


「受け取ったよ。ヒーローの意志ヴィレを」

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碧巨人ヴィレ -約束と意思- 漣職槍人 @sazanami_611405

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