小説家自身の冒険譚

@peruu

第1話 それでも描く

それは、笑われるかもしれない。もしかすれば讃えられるかもしれない。いつかは人の生に影響を与えるかもしれない。いつかいつかの私のように。物語の中心に立つ者、その青年とは、そして物語の主人公とは、そう。この私である。





「飽きたな、これも。」

私は本を書いていた。時には完全に創作で、時には実在した英雄、勇者、魔法使いを元にして。どの本もそこそこに売れ、生きるのには困ったことがなかった。

「......ボツ」

独り言を呟いた。面白みに欠ける冒険をした勇者であった。仲間に恵まれ、剣の才に恵まれて大した苦労をすることもなく一日にして魔王を倒してしまった。

「あまりに熱が欠ける...」

15年以上の戦争を行ってきたのに対し、魔王城はたった一夜にして無人の城へと化した。こんなものでは、読者を喜ばせられない。小説家としてルール違反だが、人生を否定したくなる。

「仕事、辞めようかな。」

ベッドで横になりながらまた呟く。実の所、仕事は全く捗らなかった。書いては捨て、書いては捨てを繰り返していた。

「よし。」

私ながら突然過ぎると思う。街を出るというのは。

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