第10話 森の魔女と傲慢な金獅子

 エドゥアールの暗殺未遂事件は、従兄弟のブライアン逮捕によって幕を閉じた。

 この事件は大々的に報じられ、イファヴァールの住民たちの間にも瞬く間に広まっていった。中でも彼らの興味を引いたのはエドゥアールを助けた森の魔女の存在で、それまで人々の中に浸透していた恐ろしい魔女の面影は事件の真相と共にゆっくりと薄れていった。


 魔女の功績はそれだけに留まらず、その豊富な薬の知識でアングラード伯爵の病をも回復に導いていった。

 命を救われたエドゥアールはその美しい魔女に心を奪われ、二人はそう遠くない未来一緒になるのではないかと言う噂までが飛び交い、街は暫くの間魔女の話題で大いに盛り上がっていた。


 そんな中レティラの森では噂の魔女を一目見ようと人が押し寄せるようになり、ジゼルの家が建つ周辺一帯は領主の管轄下に置かれ、無断で立ち入ることを禁じられた。


「何がきっかけで変わるか分からんものだな」


 呟いて、エドがラシャの紅茶に口を付ける。懐かしい味に、自然と頬が緩んだ。


「急に世界が変わってしまったようで、慣れるまでにもう少し時間がかかりそうです」


 そう言って困ったように眉を下げても、ジゼルの表情は柔らかい。エドの持ってきた菓子を食べると、その顔が更に幸せそうに綻んだ。


「でもかなり話が盛られててちょっと困っちゃいますね」


「美しい魔女というくだりか? それとも……」


 言葉を切ったエドが意味深に笑みを浮かべ、頬杖を突いたまま隣に座るジゼルへと右手を伸ばした。細い指先で頬を撫でると、途端に花が色づくように頬を染める。


「それとも、二人が一緒になるという未来か?」


 誘うようにジゼルを見つめるアメジストの瞳が、熱っぽく揺れた。頬に触れていた手をジゼルの後頭部に回し、そのままぐいっと引き寄せる。触れた唇から甘い吐息が零れ落ちた。


「欲しいものは手に入れる。迷うようなら俺しか考えられないようにしてやろう」


 自信に満ちた強引な告白に、再度ジゼルが困ったように笑った。


「もうエドさんのことしか考えてませんよ?」


「そうか。――ならば問題はないな」


 満足げに目を細め、今度は喰らいつくように唇を奪う。


 穏やかな日差しの降り注ぐ午後。

 家の外では二人を祝福するように、森の動物たちが小鳥のさえずりに合わせて踊るように跳びはねていた。

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