タイムメモリーライフ

アリエッティ

 変化した世界

 2068年

当時、人生100年時代と言われていた世界の医療は大きく飛躍を遂げ人間は遂に寿命という概念を失った。

 全ての代替品であった紙幣は廃止され、通過は新たなものへと変化した。


それは時間。

寿命を失った事で活動する刻は増え、生きる時間は人の価値になった。


『クロックロード社』

大手企業に位置し、勤める社員は言わずもがな仕事に時間を多く使う。

「コーヒーをブラックで」

備え付けの食堂で毎朝コーヒーを頼む

彼の一日はそこから始まる。


「いいの?

毎日こんな事に時間を使って」

「構わないさ、俺に余暇は必要無い。

仕事に時間を喰われれば、後は静かにコーヒーを飲むだけさ」

「何それ、まぁいいわ。

コーヒーブラックで、一杯2分よ」

「どうも。」

 時計は、単に時間を確認するだけのものでは無くなった。一日で使える時間を表示し、私用や経費で落とした時間が消費される。過去でいう財布の役割を担うようになった。

「24時間、家を出て出社するまでが15分。コーヒーを買って..残り23時間と43分、いつも通りだ。」

正しくは始業が9時なので14時間43分程度だが、気にする程ではない。


『クロックロード社・時間管理科』

 ここでは日々街の余分な時間や刻の多使用を取り締まり制限する。

スーツを着る割には外回りが多い。

「よう稼働くどう捗ってるか?

よく文句も付けずに出来るよな、オレはもっといいと触れ合う時間が欲しいぜ。」

「良かったな、丁度時間を使えそうな新人がそこに現れたぞ」

「お、新入り..⁉︎」

無駄に時間を遣っていると揶揄される企業の城に、また一人中傷を買う変わり者があらわれた。


「初めまして、姫川 愛流です。

精一杯頑張るので宜しくです!」

姫川愛流ひめかわあいるちゃん結構かわいいじゃん。嘘、恋の予感」

「そんな訳あるか」「何でだよ?」

「恋愛をしたい女が態々企業には入らん。それも時間管理の企業にな」

 富裕層の概念は大きく変わり、金の有無は完全に価値観として衰退し当時ニートや無職といわれた時間を持て余す者が重宝されるようになった。


「皆お前みたいなのばっかりじゃねぇんだよ、俺はものにするぞ彼女を。」

「勝手にしろ」

「という訳で本日付けで我々の仲間となる姫川だ、教育係はそうだな..よし

稼働、お前に任せた。」


「はい。」

「なんでだよ⁉︎」「希望は潰えたな」

「よろしくお願いします。」

「稼働 恭二だ、宜しく頼む」

 同僚は恨み節を利かせたが、余暇の無い彼にとって後輩の教育は時間の無駄でしか無かった。止むを得ずの、仕方無しの業務以外の何ものでも無い。


「早速業務の説明といきたいところだが、正直俺達の仕事は実戦向けだ。慣れないところ申し訳訳無いが、外回りに出掛ける。いいか?」

「はい、もう〝スーツ〟は着てます」

「..準備がいいな。」

我々の仕事は昔でいう『集金』に近いものかもしれない。一応の法律として金に変わる媒体の制限が存在する。


「はい、今日の分。」「ありがとー」

「そこ止まれ」

「あぁん、なんだテメェら?」

「ケンまずいよ、あのスーツ..。」

「時間管理科の姫川と稼働です、貴方24時間分以上の時間をその方に差し上げてますよね?」


「テメェ、クソリーマン達か!」

「一度の時間の貸与もしくは支給は1日の使用料までと決まっている。注意を促しても事を推し進めると言うのなら悪いが手を出させて貰うぞ。」

「調子ぶっこいてんじゃねぇよ!?」

 時間の有り余る者は様々な者にそれを分け与え、範囲を広げていく。それは各々の趣向や思想によって様々だが前述のこの男、かつてニートと呼ばれていた彼は組織と契約し、以前と比べより莫大な時間をやり取りしていた。


「何ですか..この量!?」

「悪趣味な奴と当たったものだ、時間盗賊とでも呼ぶべきか。」

「はしタイム(はした時間)なんていらねぇぜ、どうせ働くだけの無駄刻だオレ達で有意義に使ってやる。」

「スーツの準備はできたか?」

「はい!」


特殊スーツ・タイムクロック

悪的に使用されるであろう時間を搾取し保管する。それを力に還元し衝撃として放出させる事も可能。

「相手取れるのか?」「舐めるな。」

闘うサラリーマンとは俺達の事らしい

「行くぞ新人。」「はい!」

 多勢対少数、主な戦闘形態だが勢力的にも武力的にも大概こちらが劣る。

「コツは軽く触れ、二打目で返す」

「はい、軽く触れ...二打目で..」

「おらぁ!」


「返す!」「上出来だ。」

基本はカウンター攻撃、目には眼をのスタイルで武力を覆す。

「何やってんだよテメェらよぉ!」

「うるせぇ黙って見てろ!」

悪童は知恵を絞る、そうしてやがて技術を超えて侵攻を止める。

「盗賊舐めんなリーマン共が!」

時間は生活を豊かにするだけでなく、科学や流行にまで侵食する。

「数秒止まれ..」「はっ!」

「新人!」停止固定装置か!

「一斉に撃ち込め、野郎共。」

「銃火器!?

貴様、どこまでの時間行使を..!」

「身を護る為ならなんだってやるさ」

「くそっ!」「遅せぇよ。」

銃弾は、容赦無く姫川に撃ち込まれた

血飛沫を飛ばし穴を開け、今朝の笑みなど嘘のように溶けて崩れていた。

「新人...!」「アハハハ!!」

稼働は絶望した。

酷く慣れ、軽く見ていた自分の業務の過酷さを改めて理解し後悔に苛まれた


「姫..川ァ...!」

「先輩....離れて..。」「何?」

スーツが輝く、時間を収束し一点にて放つ、一斉射撃フルバーストだ。

「お前もしかして、弾の時間を?」

「弾の放射された時間を集めて..返却します...。痛みは、残りますけど....」

「は、離れろぉ野郎共!」

「無駄だ。」

フルバーストは返却機能、使用した時間を収束させて使用者に返す。

「逃げ場は無い!」

光が消える頃、煩い声も消えていた。


「………。」

「とんだ初仕事になってしまったな」

「学ぶ事は、沢山ありましたよ..。」

責任は感じていた。

しかし危険を伴う事は知った上での新入りだ、こうなる事も判っている筈。

「仕方ない。」「....はい?」

「お前に時間を分け与える。」

「なっ、そんな事をすれば..!」

「わかっている、俺は終わるだろう」

 医療の観点から怪我人に時間を分け与える事が可能とされている。しかしそれは医師の義務であり、一般的にそれをすれば厳しい罰則が与えられる。


「相当な深手だ、完治するまで半年は掛かるだろう。罰則としてそこに俺の使用時間の倍の刻が加算される。」

治療期間半年+稼働の時間

稼働は会社員の為そこに勤務期間6年の倍の時間が加算される。したがって姫川の治療をすれば12年と半年の時間が彼女に追加される事になる。

「12年を失った貴方はどうなるのですか、積み上げてきたキャリアは⁉︎」

「今までの業績は無くなり、単純に通常の12年分出来が悪くなる。安心しろ医療的な行為とみなされ戒めは無い」


「そんな事..出来ません。」

「お前が死ぬよりマシだ、腕を出せ」

腕時計は随分な進化を遂げたものだ、

人の命を救えるのだから。

「傷が、治っていく..。」

「大丈夫そうだな、上手くいった。

それじゃあ俺は明日から、ゆったりと過ごさせて貰うとするよ。」

「……。」


ー二年後ー

「主任!

タイムシステム始動しました!」

「そ、順調みたいね。

引き続き経過を観察してくれる?」

「はい!」


クロックロード社時間管理科

主任 姫川愛流

以前と比べると会社は約三回り程拡大され技術は飛躍的に向上した。

 クロックスーツには多種多様の武器が備えられ、時間を悪用する者を察知し追いかけるレーダーを設置。さらには開発途中のタイムシステムにより、行動を先読みに事前に防ぐ手立てまで用意している。

「すごいよな、二年前まで新人社員だったのに今や主任だぜ?」

「ああ、社長の話じゃ普通の12年分の働きだそうだ。とんだエリートだよ」

「憧れるよな〜、それに比べて庶務倉庫課のアイツときたら..。」

「あぁ、あいつか。」


「おいまた発注間違えてるよ!

何回いったらわかるんだよ、大体君はいつも仕事が遅すぎるんだよな!」

「す、すいません...。」

庶務倉庫課 稼働恭二


「落ちぶれたもんだよなぁ、あんなにペコペコしてさ。」

「二年前までエリートだったのにな」

「調子に乗ってたんだろ、当時から」

掌は直ぐにひっくり返る。

簡単な要因で、単純な欠陥で。


「はぁ..しんどい。」

落ち込んでる廊下では直ぐに荷物を落とす、その度に鼻で笑われる。

段ボールの中の雑品が弾けようと、関係無く薄ら笑う奴がいる。

「あの、大丈夫ですか?」

「あぁ..すいません。」

「無理しないで下さいよ、稼働さん」

「心配には及びませんよ姫川主任。」

「主任!至急来て下さい!」

「あ、はい!

では失礼します。」「あぁ、はい..」

最早背中すら追えないな。

後悔は無いが、寂しいものだ。

「誰と話してるんですか、アレ倉庫課の稼働でしょ、駄目ですよあんなの。時間の無駄でしかないんですから」

「……そうかもね。」


あと半年、半年だけ待って下さい。

私の傷を癒すまでの期間だけの辛抱、そうすれば貴方に総ての時間を...。

「引き続き経過を見張りましょう」

私の先輩は、いつまでも貴方だから。

                完

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