せめてリサイクルされやすい人間に

ちびまるフォイ

使いみちのない人

「……というわけで、今日からこの人間リサイクル工場で

 働いてもらう人が入ったので紹介する。みんな仲良くしてくれ」


「よろしくお願いします」


「といっても、別に何か協力することはないんだけどな、わはは」


工場長の言う通り、人間リサイクル工場での仕事は完全にひとりで進められるものだった。

自分のラインが割り当てられ、コンベアで流されくる人間。


もしも姿勢が崩れていたりしたときは、

人間リサイクルされやすいようにキチンと整える。それだけ。


あとは機械がやってくれる。

ここで何時間も働いていると、自分も機械なんじゃないかと思い始めてくる。


休憩時間になると別ラインの先輩が声をかけた。


「よお、お前はなんでこの仕事にしたんだ?」


「息子が重い心臓病で、治療にはお金がかかるんです。

 ドナーもまだ見つからない状況で、せめてお金だけでも準備しておこうかと」


「そっか。大変なんだな」

「そうですね。このままじゃ息子はと思うと、仕事を選んでられなくて」


「しかし、こうして死んだ人間がリサイクルされて

 ペットボトルや服やら家の資材になっていると思うと

 なんだか俺たちの仕事も社会に貢献してる気がするよな」


「先輩は気持ち悪くないんですか」

「なにが?」


「人間がリサイクルされたものを使うことに抵抗あるかなと」


「ああ、そういう一部の過敏なタイプじゃないからな。もう慣れたよ。

 それにキレイにリサイクルされるから見分けもつかないし。

 人間リサイクル品を避ける人は、食品添加物もきっと避けるだろうぜ」


ビビー。

《休憩時間が終了しました。ラインに戻って下さい》


ラインに戻り、コンベアに流れてくる人間の姿勢を整えてゆく。

次第に考えなくなりぼーっとしはじめた。


そのとき、流れてくる人間を見て声が出た。


「か、母さん!?」


間違いなかった。間違いようもなかった。

次にコンベアで流れてきたのは実家の母親だった。すでに息はない。


ろくに連絡もしていなかったので、死んでいるなんて思いもしなかった。


とっさにコンベアからおろしてしまおうかとも思った。

そんなことすればたちまち警報が鳴ってしまうだろう。


モタモタ判断を遅らせているうちに、母親はリサイクル機の中へと吸い込まれていった。

用途に応じたラインへとさらに流されていった。


ビビー。

《本日の業務は終了です。みなさんお疲れさまでした》


業務終了後、俺はまっさきに実家へと戻った。

きれい好きの母親がひとりで暮らしていたはずの実家は

なぜか荒らされて、警察の人がなにやら現場検証していた。


「あの、これはいったい……」


「ご家族の方ですか? この度はお悔やみ申し上げます。

 しかし、許せませんね。人を殺しておいて逃げおおせるなんて」


「人殺し!? 母は殺されたんですか!?」


「ええ、犯人はまだ逃走中です。

 しかし金品は盗っていないのでどういう意図か……」


「そんなの! ただの殺人が好きなだけのやつでしょう!!」


「人間リサイクルが始まってからこの手の殺人は多くて。

 リサイクルされれば、その分貢献ポイントがもらえるんですが、それ目的でしょうかね」


「動機なんてどうでもいいでしょう!? 俺の母が殺された、それだけですよ!!」


「しかしねぇ……」

「もういい!!」


真実を知ってからは警察まかせになんてできなかった。

警察はきっと犯人を捕まえて、しかるべき罰を与えるだろう。

だが、その罰は俺にとっては軽すぎる。


犯人を同じ目に、いやそれ以上の目に合わせなくては許せない。

たとえそれで自分が犯罪者になったとしても。


俺は生前の母の痕跡からなにまですべて洗いざらい調査した。

やがて、ひとりの犯人像へと行き当たる。


「こいつか……!」


母は殺されるまで病院を行き来していた。

仕事で会いに行けない俺のために、心臓病の息子を励ましていたんだろう。


そこの医者がとくに面識があったようで、調査した結果も符合する。


きっと、どうせもう死ぬんだからと、リサイクルの貢献ポイント目当てに殺したんだろう。

許せない。


そのうえ、心臓病の息子が入院している病院



俺は誰にも見つからない場所に犯人を呼んだ。


「……あの、話とはなんですか?」


「あんたが殺したんだな」


直球の問いかけに医者の顔が一瞬変化した。

これが間違いだとしてもためらいはなかった。


背中に隠していたハンマーで医者の後頭部を殴った。


「ぐあっ……!」


「痛いか? 痛いよな。でも俺の母さんはもっと痛い思いをお前にさせられたんだ!!」


「ご、ごめんなさい! 許してください!!」


必死に謝る医者を何度も何度も殴打した。

しだいに動かなくなり呼吸音も聞こえなくなった。


「はぁっ……はぁっ……ざまあみろ。天誅をくだしてやったぞ……」


この人間もリサイクルされるかと思うと、

殺人鬼をひとり減らし、資材を増やしたことは良いことだと思った。


達成感に浸っていると、電話が鳴った。


「もしもし?」


『ご家族の方ですか!? すぐに病院へ来て下さい! 息子さんが……!!』


病院につく頃には息子は緊急治療室で会うことはできなかった。

手術中のランプが消えた頃、青い顔の看護師を見て悟った。


「ダメ、だったんですね……」


「私達も手を尽くしたんですが……先生さえ居てくれたら……」


「先生?」

「●▲先生です」


ハンマーでぐちゃぐちゃにされた顔がチラついた。


「そんなに腕の立つ医者だったんですか」


「はい。それに今日がヤマだと言って、臓器提供先も見つかったとおっしゃっていました。

 どこから見つけたのかわかりませんが……もし、先に手術できていればこんなことには……」



それからしばらくして、俺は警察に逮捕された。


俺の息子の臓器提供のために、医者が殺人に手を染めていたことは獄中で知った。

今はもう救えるはずだった息子もいない。


「俺も、息子のようにリサイクルされるんでしょうか」


「お前のようなクズは社会復帰できるわけ無いだろう」


看守は冷たくはねのけて終わった。

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