自称天才強盗
昆布 海胆
自称天才強盗
「くそっまた不採用かよ!」
部屋のポストから取り出した封筒ごとくしゃくしゃに丸め俺はゴミ箱へ投げ入れた。
今月中に仕事を見付けて家賃を払わないと部屋を追い出される焦りが俺を煽る。
「本当に世の中ってのは糞だな!俺みたいな天才が入ればその会社は急上昇間違いなしなのに・・・」
そう一人愚痴るとペットボトルのお茶を飲み干す。
子供の頃は天才や神童と持て囃されたのを思い出しながら俺は部屋を飛び出した。
男の名は相良 隆太、大学を卒業して就職したのだがプライドが邪魔をして直ぐに仕事を辞めた。
それ以降アルバイトを転々として生活をしていたが、30を過ぎた頃から仕事に受からなくなっていった。
勤務態度に問題があるのだが、自称天才の相良はそれを妬みや嫌がらせと勘違いしていた。
十で神童、十五で才子、二十歳過ぎれば只の人とはよく言ったものである。
「くそっどうすれば・・・金を何とかして稼がなきゃ・・・」
親指の爪を噛みながら相良は町を徘徊していた。
頭の中を巡るのは『金』だけである、今回のバイトの面接が落ちれば家賃引き落としの日までに収入を得る事が難しくなったのだ。
既に金融屋からは限界まで金を借りている、闇金に手を出せば一時しのぎにはなるかもしれないが、待っているのは想像に容易い未来だけである。
「仕方ない・・・やるしかないか・・・」
相良はサングラスに帽子とマスクを身に着け膝を少しだけ曲げて体を小さくする・・・
そして、懐からカッターナイフを取り出して一軒のリサイクルショップに足を向けた。
裏通りに在るその店は見るからに暗い感じの趣味でやっている店そのものに見えた、客があまり寄り付かないがリサイクルショップであれば大型家電等の持ち込みの際に買い取り金を支払う為に現金があると考えたのだ。
「いらっしゃーい・・・」
店内に入るとやる気のなさそうな声が聞こえた。
薄暗い店内の奥にガラスケースを挟んで座る青年から出た声だ。
相良は手にしたカッターナイフを目立たせないように持ちながら青年に近寄った。
「ん?何かお探しですか?」
そう口にした青年に向けて相良はカッターナイフの刃を出して突き付けた。
そして、わざと低く絞り出すように口にする・・・
「金だ、金を出せ!」
相良が行ったのは強盗である、少なくとも痕跡を出来る限り残さずに身バレしない最低限の方法を行いながら彼は行動に出たのだ。
カッターナイフの刃を見た青年は見る見る青ざめながら両手を上にあげた。
今にも泣きだしそうな青年の目が相良の口元を歪める・・・
(これはイケる!)
そう確信した相良であったが予想もしない返答が青年から返ってきた。
「す、すみません・・・レジのカギ、オーナーしか持ってなくて・・・開けれないんです!」
「・・・あぁっ?!」
「ひぃっ」
そう、青年はアルバイトで、オーナーが出張買取に出ている間の店番としてそこに居たのである。
そのオーナーが居なければレジは開かず金が手に入らない・・・
しかし時間を掛ければ別の客が店にやってきて自分は捕まってしまうかもしれない・・・
だが自称天才の相良は直ぐに妙案を思い付いた!
「そうか、ならオーナーが戻ったらここに電話しろ!」
そう、鍵が無いのであれば持っている人間が居る時に再度訪れればいいのだと相良は考えて、自室の固定電話の番号を店のボールペンを使って記載して渡したのだ。
「必ず連絡するんだぞ!いいな!」
「は・・・はいっ!」
その行動に困惑する青年を残し、相良は店を後にした。
これで金が手に入り家賃が払える、相良の頭の中はそれでいっぱいであった。
そして、自宅に帰り待つ事30分・・・
『りりりりりん・・・りりりりりん・・・』
相良の家の電話が鳴り笑みを浮かべて電話に出る相良。
「もしもし・・・」
『あっあの・・・オーナー戻りましたので・・・』
「分かった直ぐに行く」
身バレを防ぐ為の声でそれだけ伝えて電話を切った相良は先程と同じ格好になり家を出た。
これで家賃が払える、相良は楽観的にそう考えながらリサイクルショップを再度訪れたのだが・・・
「おいっ来たぞさっさと・・・」
「確保ぉ!!!」
「っ?!」
手にしていたカッターナイフの刃を出す前に影に隠れていた警官達が相良に襲い掛かった!
薄暗い店内に置かれた様々な物が上手く警官達を隠していたのだ。
「くそっ!てめぇ!通報しやがったな!!」
そう叫ぶ相良であったが複数の屈強な警官に押さえ付けられて身動きが取れずそのまま逮捕された・・・
それから5年、懲役を終えた相良はずっと考えていた行動を実行に移すことにした。
前科が付いてしまった状態で人生を一発逆転するのには大きく稼ぐしかない!と・・・
「やっぱりここを狙うべきだよな!」
そう口にした相良の前にはとある銀行の支店が在った。
既に用意していたサングラスに帽子とマスクを装着し相良は銀行に背を向ける・・・
「くくくく・・・やっぱ俺は天才だぜ!」
そう口にして近くのビルに設置された公衆電話に入った。
相良はずっと考えていたのだ、何故強盗が失敗に終わったのか・・・
それは最初に行った時に金が受け取れなかったのと時間が掛かり過ぎていたと言う事である。
とある記録によれば通報を受けてから警察が来るまで平均で6分57秒と言われている。
ならば、5分以内に金を受け取り外へ逃げてしまえばいいのだ!
相良はどうすればそれを実行出来るのか必死に考えて一つの画期的なアイデアを思い付いたのだ!
「いらっしゃいませ、どういったご用件でしょうか?」
「電話した相良だ」
そう名乗り刃の出たカッターナイフを右手で突き付けバックを持ち上げる。
「伝えておいた1000万円をこれに詰めろ!」
そう、相良が考えたのは回転寿司等に在る電話予約を応用した作戦であった。
近くの公衆電話から銀行に強盗に行く連絡を前もって入れておいて金を先に用意させておく、そうすれば来店から退店まで5分以内に余裕をもって出られると考えたのだ!
更に『今から銀行強盗に行く!金を用意しておけ』等と言う電話を入れられて本気にする人間もまず居ない、だから悪戯だと思われて通報される事は無いと相良は考えたのだ。
まさに天才と馬鹿は紙一重である!
「さっさとしろ!」
そう言って相良は用意されている筈の1000万円を手にしてどう逃走するか考えながらデスクの上に置いた・・・
バックではなくカッターナイフを・・・
「・・・えっ?」
「・・・・・・あっ!?」
目の前で起こった事にいち早く気付いたのは銀行員であった!
素早く手でカッターナイフを横へ叩いて飛ばし後ろへ下がる!
その動き!まさしく行員矢の如しであった!
そうしている間に店内に響く『強盗だ!』の声と警報器の音!
出入口は自動ドアが止められ、銀行員達も奥の部屋に逃げ込んで施錠された。
残されたのは相良一人、銀行内には勿論沢山の現金が在るが相良はその場にへたり込む・・・
こうして相良は再び警察のご厄介になるのであった・・・
彼は諦めない、再び外に出た時にきっと彼はまた行動に出るであろう・・・
完
自称天才強盗 昆布 海胆 @onimix
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