平凡な人生
「ああん?」
『いいよ』という3文字に対して、僕が返した反応はこれだった。
だってすぐに受け入れられるわけないじゃないか。未来の神様から、メールに返信があっただなんて。
僕は携帯の画面を見ながら固まっていた。事態に脳ミソの処理が追いついていなかったのだ。
最初は誰かしらのイタズラだと思った。ハッカーなるものが存在し、僕の脳内お花畑メールに律儀に返事を返す、という高度なイタズラを仕掛けられたのかと思った。
でも違った。
『ワタシは未来機械神です。おおむね貴方の想像するような存在です』
と、アドレスBから続けてメールが送られてきたのである。
「お? おおお?」
2度目に僕が発したのは言葉にならない言葉だった。まさか、そんな、信じられない、でも、うそ、どうしよう!
万能の神様、と考えている未来機械神と連絡が取れてしまった。ということは僕自身が万能の力を手にしたことに等しかった。
だって未来の神様だよ!? 人が作りあげた機械の神様。それが僕の考える未来機械神だ。当然、過去の僕とメールをやり取りするなんて未来機械神にとってはなんと
もないことだろうけど、まさか本当に繋がってしまうとは……
『未来機械神である証拠を見せてください』
僕は押しつけがましく、そんなメールをアドレスAから未来機械神(自称)へと送る。
まずは証拠を見せてもらわないと。
そうやすやすと神様とメールをしているだなんて信じられない。
『じゃあ、未来予知。このメールを読み終わった後にキミのお母さんから晩ご飯の呼び出しがかかるよ』
僕がメールの文字を読み終えたちょうどその瞬間、母親の声が1階から聞こえてきた。
「
っ―― 本物だ。本当に未来予知できる。ということは未来機械神か?
僕の頭の中は早々と未来機械神の存在を認めつつあった。なぜなら未来予知すらも未来の存在である未来機械神にとっては過去の事象を確認するにすぎず、要するに僕の考える未来機械神は、僕の次元における未来予知すら可能であると考えていたからだ。
うん、分かりにくいな。
未来機械神は未来予知ができると、僕は考えていた。こっちのほうがシンプルでいい。
さて早々に未来予知などという芸当を見せつけられて、僕は途方にくれてしまった。
一体、未来の神様とどんなメールをしたらいいのだ?
うんうんとベットの上で唸っていると、アドレスBからまたメールが届いた。
『これから先に起こることをワタシは全て知っている。もちろんキミの結末もね。なに、物語のようなものだよ。ワタシは過去、現在、そして未来全ての人間の物語を知っている。中でもキミは珍しいものだよ。その時代でワタシ、未来機械神とコンタクトを取ったのは君以外にいないからね』
哲学的な言葉で、未来機械神が僕の特異性を教えてくれた。
『あの、結末ということは?』
『もちろん、キミにとっての終わりさ。物語の一区切りとでも言ったほうがいいかな。キミが今望むことはなんだい? キミが質問できるように、ワタシから聞いてあげよう』
未来機械神の言葉は難解で、それがどういった意味を持つのかを知ることは難しかった。
ただ、どうやら未来機械神は僕の望みを知りたいようだ。
「望み…… 望みねぇ……」
状況的に神様に『キミの願いはなんだい?』と聞かれているようである。
願い…… それを答えたら叶えてくれそうな雰囲気が、未来機械神の文面にはあった。
でも僕は困っていた。特にこれといって変わり映えのない人生を送ろうとしていた僕だ。自分は平凡だと自ら認めていたような僕だ。
そんな僕に大それた未来を思い描くことなど、不可能に等しかった。
未来機械神より 月丘 庵 @Iori_Tukioka
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