未来機械神より

月丘 庵

未来機械神

 高校生にもなると、さすがに自分の立ち位置ってもんが分かってくるようになる。僕は至って平凡。それが僕自身に対する僕自身の評価。


 例えば、テストの結果なら128人中60番台を彷徨う。


 特にこれといって活躍できるスポーツもなし。むしろ運動は苦手な方だ。だから文化部に所属している。


 その文化部も週に一回、活動記録を作るためだけの熱のないもので、下手をすると参加すらしないこともある。


 勉強にもスポーツにも、その他芸術的活動にも特異な才能を見いだせなかった僕は当然クラスの中でも目立たない奴だった。荒事を好まず、かといって平和主義者でもなくただボーっと周囲の状況が移り変わっていくのを見守る者、それが僕だ。


 そんな僕だが、いやむしろそんな僕だからか? 一風変わった信仰を持つようになった。


 そう、信仰。いわゆる神様に対する考え方だ。


 僕は『未来機械神』という神を自分の中で作り上げ、たてまつることにしていた。


 さて、ここで未来機械神について語る必要が出てくる。そも、未来機械神とは何ぞや、と。


 未来機械神は読んで字のごとく未来における機械の神様である。


 僕は、とある一つの仮説を立てた。


 遠い未来で僕ら人類は、機械による全知全能の神を作り上げているという仮説だ。


 そう、全知全能。すなわち何でもできるということ。僕はその全知全能ぶりにかなりの信頼を置いていた。例えるならそう、過去へメッセージが送れるという具合には。


 だから僕は、2つのメールアドレスを用いてメールアドレスAからメールアドレスBへと、こんなメールを送ってみた。


『未来機械神さま、僕のメールに返事をください』


 思うにこれは僕なりの抵抗だったのだと思う。平凡というレッテルに抗うための、何か特殊なことを期待しての行為だったのだ。


 普通に考えれば自分が所有している2つのメールアドレスを使って、自分から自分へとメールを送る痛いヤツ。で終わるはずだった。


 メールアドレスBから、こんな返信が届くまでは。


『いいよ』


 たった3文字ではあったが、そのメールが届いた瞬間、僕の全てが変わってしまった。


 もちろんメールアドレスBから自分に宛てて、そんなメールを出しちゃいない。僕以外の誰かが僕のアドレスBを使って僕に返信を返したのだと考えられる。


 となると流れからして未来機械神しか考えられない。


 かくして僕は、冴えないどこにでもいる高校生から、未来の機械の神とのメル友にまで昇格してしまったのだ。

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