深夜、コンビニ前の神様

@balsamicos

コンビニ前の神様

りょういちはある日、深夜のコンビニ前で自身を神と名乗る男に出会った。


普段なら警戒して近寄りもしなかっただろうが、その日はふと怪しげなその男に話しかけていた。


「神さまが深夜のコンビニに用事ですか?」


「特に用事はないよ」


「何しにここに来たんですか?」


「私は最初からここにいるよ」


「最初っていつからですか?」


「君が生まれるずっと前だよ」


「前来たときはいませんでしたよ?」


「君が私を必要としてくれたから見えたんだよ」


「俺は別に貴方を必要としてませんよ」


「それならそれで構わないよ」


「神様を名乗って何がしたいんですか?」


「別に何もしないよ」


「じゃああんたは何しに現れたんだよ!」


「私が君の前に現れたんじゃない、君が私の前に現れたんだ」


「…恋人が交通事故で意識不明の重体なんだ」


「知ってるよ」


「神様ならどうにか出来ないのか?」


「出来ないよ」


「なら神様ってやつは何のためにいるんだ」


「神様に存在理由なんかないよ、ただそこにいるだけ、君らと一緒さ」


「なら神様なんて必要ないんだな」


「話なら聞くよ」


「それに意味はあるのか?」


「少なくとも君のやり場のない怒りは受け止められるよ」


「殴っても良いのか?」


「痛いのは勘弁したいな」


「悪かった、今のは忘れてくれ」


「忘れるよ」


「…話を聞いてもらえて少し落ち着いたよ」


「それならよかった」


「今日は帰るよ」


「さようなら」


「明日もここにいるのか?」


「君が私を必要としてくれるならね」


「…そうか」


──────────────────────────────────────

───────


「ここ?りょういちが神様と話したってところ」


「ああ、変なやつだった」


「あれから見てないの?」


「見てないな」


「りょういちが神様に話したおかげで私は助かったのかな?」


「いや、それはないな」


「…そっか」


神様は存在する。


けれど当てにするもんじゃない。


でも話は聞いてくれる。


そのくらいでちょうど良い。





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

深夜、コンビニ前の神様 @balsamicos

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ