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 それから二十一世紀は怒涛のスピードで最終コーナーを曲がり損なって失墜し、リレーを受け損なった二十二世紀はゆっくりと降り積もる灰に覆われていった。

 そう、いつのまにかぼくたちの街にはなんにもなくなっていた。書店すらもなくなっていて、灰が延々と降り続けては街をすみずみまで灰色に染め上げていった。ぼくたちはその熱心さに、どこか敬虔なものを感じてしまう。爆音も滅多に聞けなくなった。

 それでも彼女は闘っているようだった。思い出したように復旧して、その間隙を狙いすましたように配信されてくるネット・ニュースの内容によれば、人類はアルプス山脈に押し込められてはいるけれど、まだまだ踏ん張っているようだ。

 最近のぼくたちといえば、ぼくたちを保ち続けるためにぼくとぼくをあの頃にくらべて頻繁にスイッチさせるようになっていた。そして書店のあった場所をスコップで掘り返しては本を探しているのだけれど、どうあっても彼女の闘っている物語を、クロームに輝く自転車を立ちこぎする彼女を探していることは、とっくの昔に自覚しているのだった。



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彼女の闘い、灰の街 川口健伍 @KA3UKA

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