エピローグ
第81話 終わりと始まり
それから数日後、荷車に沢山の武器や防具を乗せてアイマールは『ラニエリの店』の前にいた。
「ラニエリさん! ラニエリさん出て来て下さいよ!」
アイマールは外から大声で店主の名前を呼んだ。
「なんだ? いったい何事だ?」
いつもの長椅子で居眠りをしていた初老の男は、外からの大声で目を覚ました。
アイマールがしばらく外で待っていると、少し迷惑そうな顔をした短い銀髪、丸眼鏡の初老の男が店の中から顔を覗かせた。
ラニエリが外に出ると、見覚えのある少年がニコニコと笑顔で待ち構えている。
「おぉ、君は確かアイマール君だったね? 無事に帰って来たのかい」
冒険に必要な道具を借りていった変わった少年がいた事を思い出し、ラニエリも思わず笑顔で出迎えた。
「はいっ! お陰様でクエストも成功して、本当にラニエリさんには感謝してます」
「はっはっは! ワシは何もしとらんよ、全部、君の力だ」
「今日は冒険者の道具を、お貸しいただいたお礼を持って参りました!」
アイマールは荷車に積んだ貴重な武器や防具をラニエリに見せた。
「これはどうしたんだ?」
「全部、盗賊の砦で、手に入れました」
「すごいもんだ~良い品ばかりじゃないか」
ラニエリは目を輝かせて武具や防具を手に取る。
「僕一人ではとても管理できないので、総てラニエリさんの店へ預けたいと思います。もちろん欲しい方がいれば売っても構いません。そのお金はラニエリさんの物です」
「え? いいのかい? それで?」
「はいっ!」 アイマールは笑顔でうなずいた。
もちろん今回手に入れた、武器や防具を総て自分で売り払えば結構な金額になるだろう。しかし今回の冒険は、自分の力というよりは、周りの助けがなければ達成できるものではなかった。
アイマールはそう考えた時、自分一人でお金を手にする気にはなれなかった。
「僕が必要な道具や武器があればその時、取りに来ますので」
アイマールはそれで良かった。しばらくはこの剣があるから武器は必要ないだろうけど。
アイマールは腰に差した銀色に輝く剣を見つめた。
その時、アイマールに声を掛ける男がいた。
「よう、ここにいたか探したよ」
セードルフだった。
「セードルフさんお元気そうで、ヴィツェルさんは大丈夫ですか?」
「ヴィツェルの奴、まだ動けなくてな」
「そうなんですか」
痛みをこらえ強がって手を振るヴィツェルを思い出し少し可笑しくなる。
「ところで、新しいクエストの依頼が来たんだが、メンバーが足りないんだ……良かったらしばらく俺のパーティに入らないか?」
アルビオンの街で最強クラスのパーティからのまさかの誘いだった。
「えっ? 僕が? もちろん、喜んで!」
即答するアイマール。
「そうか、助かる。じゃ後でギルドに寄ってくれ。」
そういうとセードルフは去っていった。
「すごいじゃないかアイマール君! 今のは”漆黒の刃”のセードルフじゃないのか? どういう知り合いだ?」
興味深々でラニエリさんが質問してくる。
「今度ゆっくりお茶でも飲みながらお話しましょう」
アイマールは慌てて持って来た武器や道具をお店に運び入れた。そして何度も礼を言うラニエリに見送られ『ラニエリの店』を後にした。
そして足早に『ルイザの酒場』へ向かう
酒場へ向かうとすでにセードルフとヨーク、クマリが店の前でアイマールを待っていた。
「遅いよ、アイマール。女を待たすのは最低だよ」
クマリが不機嫌そうに、アイマールを睨んだ。
「すいません急だったもんで」
「よし、二階でルイザからクエストの詳しい話を聞こう」
そう言ってセードルフ達とアイマールは店の中に入った。すると店内の中にいる冒険者たちの視線が一気にパーティに集まる。
「セードルフのパーティだ……」
「新しい仲間が入ったらしいな……」
「あいつかアイマールって奴は……」
店内がざわつき始める。何やら先日も同じような場面に出会った気がする。気恥ずかしくなったアイマールは隠れるように後ろから仲間についていく。
「一人でゴブリンを二十匹殺したらしいぞ……」
「いや、それだけじゃない一人でミノタウロスや森の魔女も殺したらしい……」
「ガキみたいな顔してるが恐ろしい奴だ……」
話が大きくなってる気がするが大体あってるからアイマールは否定しなかった。
冒険者達の熱い視線を浴びながら、酒場の中を歩いていく。
アイマールが二階への階段を登ろうとした時、カウンターのギルドの男が声を掛けてきた。
「ちょっと待ちなアイマール!」
あの不愛想なギルドの男だった。
「ほら、これを受け取ってくれ。タグを無くしたって聞いたからよ準備しといたぜ。まあ、どのみち新しいのが必要だったけどな」
そう言ってアイマールに向かって新しいプレートを投げた。
どういう事か分からず、受け取ったプレートを良く見るとアイマールの冒険者ランクの表記がEランクからCランクへと変わっていた。
「凄いじゃねえか。2ランクアップの昇格は久しぶりに見たぜ」
そう言って男は片目をつぶり親指を立てた。
「えっ? 僕Cランクの冒険者に昇格ですか?」
目を丸くして驚くアイマール。
驚くアイマールにヨークが指を折って説明する
「え~と『トスタ村の少女捜索』と『西アルテア街道のゴブリン退治』おまけに『ヒドゥン森の魔女退治』と3つのクエストを同時に解決したという事で……Cランクは妥当な所ですよ」
そう言って笑いながら二階に上がって行く。
ヨークに説明を受けてやっと納得するアイマール。自分でも信じられないが夢中で行動した結果3つもクエストを解決していた。
もちろん自分一人の力ではなくセードルフ達の力や運が味方していた。
「もっと腕を磨かないとな」
アイマールは新しい銀色のプレートを握りしめ、自分の首に掛けた。
「アイマール、早く上がって来い」
「女を待たすなって言ったろ!」
セードルフとクマリが二階から声を上げる。
「はい、今行きます!」
アイマールは仲間の元へ階段を駆け上がった。
~to be continued~Ⅱへ続く
最後まで読んでくれた君に感謝します
アイマール・フィンの冒険 イーストバリボー @okiamioukoku
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