第80話 約束

それからセードルフ達は街へ近い道を抜け、アイマールはそのままローラを背負ってトスタ村を目指した。


 二人は道に迷うことなく歩き続け、陽が高くなる前には森を抜けた。


 見覚えのある井戸と、村人が遠くから大きく手を振っているのが見える。ローラの家族だった。


「ローラだ~!」


「お姉ちゃんが返ってきた~!」


 インガルス一家が大声を上げてこちらに駆け寄ってくる。


 ローラもアイマールの背で思い切り手を振り、バランスを崩しそうになる。


「お父さ~ん! お母さ~ん! メアリ~! キャリ~!」


 家族の名前を呼んだあと、ローラはふと家族との再会はアイマールとの別れの時だと気が付いた。


「もうお別れですね……大変な目にあったけどアイマールさんに出会えて良かった」


 遠くから家族が駆け寄ってくるにもかかわらず、ローラのどこか寂し気な声 が耳元に届いた。この任務が終わればもう二人はもう二度と会う事もないかもしれない。


「ローラ、そう言えばこのハンカチ」


 アイマールは手に巻いていた血染めのハンカチを思い出した。血や泥でボロボロに変色して、とても今は返せそうにない。


「今度! 会った時に返して下さい。収穫の時期が終わったらアルビオンの街に行けるかも知れないし」


「分かった…じゃあこれ代わりにローラに預けるよ」


 アイマールはギルドからもらった名札の事を思い出した。自分の首に掛けてある名前の彫られたプレートを外しローラに手渡した。


「これを持って、冒険者ギルドを訪ねればきっと僕を探せると思う」


「いいんですかこれ? 大事な物じゃないんですか?」


「いいんだ、お願いしてまた作ってもらうから」


 アイマールから受け取った小さな金属プレートを、ローラは大事そうに握りしめた。


「ありがとうございます。今度会う時まで大事にします。その時は……約束通り街を案内してくださいね」


「ああ、約束する……もし、街に来れないのなら僕が村まで返しに来るよ」


「はい……必ず、返して下さい」


「ああ、僕のも失くさないで…」


 再会を約束した二人。


 ローラは背負われたままアイマールを強く抱きしめた。


「本当にありがとう…一生忘れない」


 井戸の前まで来るとアイマールはローラを背中から下ろした。そして何度も振り返りながら家族のもとに帰る少女の姿を静かに見送った。

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