ホッとできる夏
あがつま ゆい
ホッとできる夏
2020年7月20日……今日は終業式。私、サツキが中学生になって初めての1学期が終わった。正直、ホッとしてる。「ホッとしてる」と書くと奇妙かもしれない。でも心境を素直に明かせば、そうだ。
中学生になって1週間もたたないうちに、これからクラス替えの行われる2年生までの1年間のクラスメートの力関係は明白になった。いわゆる「スクールカースト」というやつだ。
私はそれで言う「
小学生のころから「本の虫」だった私からすれば誰も気にせずに本を読める環境というのはありがたいが、スクールカースト下位の子たち、特に小学生の頃からの友達がスクールカースト上位の人間に目を付けられないかは気にしていた。
私のクラスや他のクラスで
特に10歳の時に幼い頃から親しかった
私の父親の兄である
そんな人が自殺なんていう
葬式に出た親戚や彼の友人知人からは色々なうわさが流れていた。やれ「事業に失敗した」だの「ギャンブルにのめり込んでいた」だの「職場でのけ者にされていた」だのと聞こえてきたが、どれが真実なのかは今でもわからない。そういえば私は結局伯父さんが普段どんな仕事をしていたのかさえ結局わからずじまいだった。
そんな過去があるので、私はこれ以上悲劇が産まれないように見えないところで裏から色々と動いている。それが奇妙な動きに見えるらしくて「
幸い、今のところ私の知る限りにおいては1年生の中では死にたそうにしている人はおらず、今のところは自殺するような動きはない。「迫害」がそれほど激しくないのか、私のサポートが効いているのか、は分からないがとりあえず平穏だと言っていいだろう。
「サ、サツキちゃん」
学校を出るため上履きを靴に履き替えていたところ、引っ込み思案気味の声を掛けられる。メイだ。
黒くてツヤのある長い髪が特徴で、日をあまり浴びないのか肌は白く、食が細いのか身体が細めで「やせている」というよりは「やつれてる」といった感じで、全体的に地味でじめっとした雰囲気をまとっており、いかにもマンガに出てきそうな「陰キャ」の特徴を全て兼ね備えているようなクラスメートだ。
私とは図書室仲間で仲が良くそれと同時に彼女が自殺してしまわないか、今のところ一番の懸念材料でもあった。
「一緒に、帰ろうか」
「うん分かった、一緒に行こう」
私は二つ返事で一緒に帰ることにした。
「ハァ……」
メイはスマホを見ながら重たいため息を吐く。
「? どうしたの?」
「……うらやましいなぁ。みんな楽しそう」
メイのスマホを見せてもらうとSNSに夕日を背景にしてとあるマンガの真似をして突き上げた腕に×印をつけているところを撮っていたり、海岸でみんな一斉にジャンプしてキレイに宙に浮いているところを撮影した画像が載っていた。
その写真でみんなお互いにイイネを送り合って、盛り上がっていた。もちろんその場には私やメイはいない。
「無理してみんなに溶け込もうとしなくていいのよ。メイには私がついてるから」
「……うん」
カースト上位の人たちは、友情は素晴らしい、仲間は素晴らしい、絆は素晴らしい、などと言っている……嘘ばっかりのきれい事をよく吐けるな。親や先生に向かってそういえば「いい子のフリ」が出来て得だからやってるだけだ。彼らは親や先生を「飼いならしている」のであって、端的に言えば先生も親も彼らの「ペット」だ。
友情も仲間も絆も
私からすればとんだ茶番だし私は別にどうでもいいとは思っているがいつ火山が噴火するか、いつ「正義」の矛先が自分に向かってくるか分からない。というのは私の周りにいる人からしたら恐怖だろう。
今のところは無視で済んでいるがいつ
実際私はクラス内外の
涼むためにコンビニに寄った後話を続ける。
「メイちゃんはいいよねぇ、髪キレイで。私なんてこんなくせ毛の茶髪だよ?ストレートヘアーって憧れるし」
「そ、そう?」
「そうよ。うらやましいなって。私なんてやろうと思ったらストレートパーマでもかけなきゃいけないだろうし」
「そ、そうなんだ。でもサツキちゃんがストレートパーマになったら、ちょっと嫌かな。サツキちゃんで無くなっちゃう気がして」
私は特に何も買わなかったが、メイはポテチを買ってコンビニを出た。早速袋を開けて中身を食べ始める。
「サツキちゃんもポテチも私の事は裏切らないなぁ」
彼女は食が細いがお菓子は別腹らしく、パリパリと音を立てて食べていく。
「サツキちゃんも食べる?」
「え? うん。じゃあもらおうかしら」
メイからおすそ分けをもらって私もパリパリと音を立てて食べていく。
いじめという迫害を受けている身からすれば、学校というのは「戦場」だ。いつ弾が飛んでくるか、あるいは撃たれるかがわからない常に緊張状態な場所だ。親も先生もスクールカースト上位の子たちを「模範的な生徒(あるいは子供)だ」と気に入っているので彼らの味方。自浄能力は無いだろう。
夏休みはそんな「戦場」である学園生活が一時的ではあるものの「休戦」してくれる。私やメイのようなスクールカースト下位やアウトカーストの人間にとってはとてもありがたく、嬉しいものなのだ。
翌朝……
「サツキちゃん」
「メイ! 今日は原宿行くんだったよね。行きましょ!」
朝から準備していた私もバッチリだ。メイと一緒に今日は1日原宿に出かけることにした。
季節は夏。半袖でも暑いくらいのまぶしい日差しがセミの鳴き声と共にやってきた。40日近い学校とは縁遠い日々を精一杯楽しもうと思う。友人と一緒に。
ホッとできる夏 あがつま ゆい @agatuma-yui
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