最終話 十年先も

「ねえ、覚えてる? ここ、何があったか」


「……忘れるわけないよ」


 テスト週間が終わったので朝練がはじまってしまい、夏織ちゃんとのバスケ朝練は終了していた。


 けど、今日は違う。


 いや、練習はしないんだけど。


 夏織ちゃんに誘われて朝練前の早朝に散歩に来ている。



 目的地は知らされおらず、「いいからついてきて!」と夏織ちゃんに言われただけだったんだけど……。

 ようやく目的地にたどり着いたようだ。



 ここは——俺と夏織ちゃんが出会った思い出の場所。

 夏織ちゃんのおばあちゃんがやってた駄菓子屋があったところだ。


「懐かしいよね。もうお店はなくなっちゃってるけど。ほら、向かいの公園はそのままだし!」


「うん、覚えてるよ。駄菓子を買ってブランコとかシーソーで遊びながらよく食べてたもん」


「そー! 落とすからよしなさいっていうのに聞かなくて……」


「うんうん。夏織ちゃんの言うこと聞かなかったせいで、いくつお菓子を落としたことか」


「そう! その度に泣くんだもん、本当に困ったんだからね!」


「……ごめん」


 話しながら昔の記憶も鮮明になっていく。


「ねえ、ちょっと座ろ?」


 夏織ちゃんが公園のベンチを指差しながらそう言うので、俺は頷く。


 早朝の風が気持ちいい。



 公園のベンチに並んで腰をかけたところで俺から口を開く。


「ねえ。どうしてここに俺を連れてきたの?」


「うーん? それはねえ、孝太くんに確かめたいことがあったから」


「確かめたいこと? なに?」


 夏織ちゃんは自分の指同士を絡ませ、視線を落とす。


「あのさ……。ここで孝太くんと出会って、十年経った今こうして一緒にいられてるじゃない?」


「……十年間待たせちゃったけどね」


「あ! ううん、それはいいの! 本当に気にしないで! 私が聞きたかったことはね……これからの十年のこと」


 夏織ちゃんは手に落としていた視線を上げて、俺の目を見てくれる。

 その目には力がこもってる。


「十年前、ここで孝太くんとあって。今こうして幸せに過ごせてるんだけど、十年後はどうなんだろうって不安になるの。

 この十年で孝太くんは心身ともに成長した。それでも私のことを好きでいてくれた。それはすごく嬉しい。

 けど。もう体は大きくならないかもしれないけど、この十年で孝太くんはまだまだ多くのことを経験して成長していく。それでも私のことを好きでいてくれるのかな……って」


 夏織ちゃんの声が少し震えだす。


「私、これからも孝太くんと一緒にいたいの……」


 そこまで言うと、夏織ちゃんは口を閉ざす。

 俺の答えを待っているんだ。



 夏織ちゃんと暮らし出してから、まだ長い期間とは言えないけど。

 いろんな経験をした。


 夏織ちゃんに助けられたこと、夏織ちゃんのおかげで頑張れたことがたくさん。

 ずっと笑っていられたわけじゃないけど、夏織ちゃんと一緒にいられてよかった。


 その中で一番思うこと。


「俺、夏織ちゃんのことが好きだよ。心の底からそう思ってる」


 夏織ちゃんの顔はまだ不安げなものの、目には少し輝きが戻る。


「短い時間だったけど、俺は夏織ちゃんと一緒ならなんだってやれるってわかったんだ。これから俺の知らないこともたくさん起こるだろうけど、この気持ちは変わらない」


 夏織ちゃんの顔と、俺の顔。

 自然に距離が縮まる。



「俺、夏織ちゃんが好きだ。夏織ちゃんとずっと一緒にいたい」



 夏織ちゃんの唇に、俺の唇が吸い寄せられる。



「たとえ……十年先だろうと」




 少しの間触れ合った唇は自然に離れ、夏織ちゃんの顔は涙を含みながらも輝く笑顔に戻っていた。



「これからも……よろしくね」



 ひょんなことから始まった夏織ちゃんとの同棲生活。

 こんな形で初恋が叶うとは思ってなかった。


 けれど、これで終わりじゃない。

 これからも夏織ちゃんと一緒にいろんなところに行って、いろんなことをしたい。


 高校生が何を言ってるんだって思われるかもしれないけど。

 高校生であっても、高校を卒業しても。

 俺は夏織ちゃんの力になる。


 そう決めたんだ。



 早朝の爽やかな風と輝く太陽が、これからも続きますように。



 〜 十歳上の初恋の人に十年ぶりに再会したと思ったら同棲することになりました 完〜

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十歳上の初恋の人に十年ぶりに再会したと思ったら同棲することになりました 相田誠 @aida-makoto

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