第56話 一週間限定マンツーマンレッスン 後編

 テスト週間はあっという間に終わった。


 テスト週間をこんなに楽しくこ過ごせるものかと、感動すら覚える。


 テスト当日までには、これまでの遅れを取り戻すどころかいつもよりも深く掘り下げた勉強ができたし。


 本当に夏織先生には頭が上がらない。



 テスト勉強で得た手応えは自信となり、テスト本番でも落ち着いて問題と向き合うことができた。


 特に数学だ。

 夏織ちゃんと勉強した問題が出るたびに”ああ、ここでこんな話をしたなー”なんて思い出しながらリラックスして解くことができた。



 そして、テストが終わったあとは返却されたテストを早く夏織ちゃんに見せたくて、毎日部活終わりとは思えない速度で自転車を走らせた。



 今回の結果は上々で。

 全教科平均越え、数学に至っては初めて90点を超えた。


 そのテストを見せると夏織ちゃんは自分のことのように喜んでくれるので、それがまた嬉しかった。


 結局、全教科の合計点数は過去最高を大きく更新することとなり、今日は、そのお祝い会である。



「孝太くん、テストお疲れ様! そして最高得点おめでとー!」


「ありがとー!」


 夏織ちゃんとグレープフルーツジュースで乾杯をする。


 机の上にはステーキを囲むようにしてご馳走が並ぶ。


「しかし、本当にいい点とってきてくれるとはねー! ちょっと驚いちゃった!」


「自分でもびっくりだよ。一週間でここまで仕上がるなんて」


 俺も夏織ちゃんも口角を上げて目を細めながら話す。


「孝太さん。ズバリ! 今回の勝因は何でしょう?」


「うーん、何だろう。夏織ちゃんのおかげで事前の勉強が捗ったからってのも、もちろん大きいんだけど。あと、ミスが少なかったかな」


「ほほお、ミスですか。それはどうしてでしょう?」


「今回のテスト、すごく落ち着いて迎えられたんだ。事前の勉強で自信がついたっていうのもあるんだけど……その、一人じゃない気がして。夏織ちゃんも一緒に戦ってくれてる気がして! そうしたら、何というか、安心できたんだ。それでだと思うんだけど、計算ミスとかスペルミスとかのケアレスミスが少なくってさ。これも今回の結果の大きな要因だと思います」


「なるほど……ありがとうございました!」


 夏織ちゃんはインタビューを終えると、立ち上がってこちらに歩いてきた。


「もー! 孝太くんはかわいいなあー! 私はいつでも孝太くんの味方だからねー!」


 そう言いながら、夏織ちゃんは座っている俺の横から抱きついてきた。


「ちょ、ちょっと! 急にどうしたのさ!」

「だって、あまりに嬉しくって……孝太くーん! 大好きだよー!」


 更に強く抱きしめる夏織ちゃん。

 腕で俺の頭を抱きかかえるようになり、俺の顔は柔らかい胸にうずもれる。


 ……く、苦しい!


 俺は一切抵抗することなく、夏織ちゃんが俺を離すまで耐えつつも享受する。


 けれど。

 気持ちいい。


 夏織ちゃんがようやく俺を離したとき、俺は思わず「ありがとうございました」とお礼を言った。


 夏織ちゃんはテストのことだと思ったのだろう「どういたしまして」と言ったのだが、それがどこかイケないことをしているような気がしてちょっと顔が赤くなった。



 今日は二人でご馳走を平らげた後もお皿を片付けることも忘れるほど会話が弾み、しばらくダイニングについたままだった。



 ……ああ。

 お腹も、心もいっぱいだ。


 今回のテストのおかげで、夏織ちゃんとの距離がまたグッと縮まった。


 俺も夏織ちゃんも、お互いの力になりたいと本当に思ってるし、そばにいたいと思ってるんだ。

 それがわかった。


 それが何よりの勉強だ。



「……あ。明日からはちょっとずつ復習ね。テストで間違えた問題をできるようになるまでやります」


「……え?」


「テストは、テスト直しまでがテストです!」


「……はい」


 テストが終わっても解放されないようで少し驚いたが、担当の先生が最高なので何も文句は言わなかった。

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