火炎

木谷日向子

第1話

人物

梶浦 緋冴子(かじうら ひさこ) (画号・梶浦火炎)(45) 日本画家

近藤 蒼磨(こんどう そうま)(27) 記者


◯緋冴子の家・前

   近藤、玄関のチャイムを鳴らす。

近藤「すみません。梶浦先生いらっしゃいますか?」

   誰も応答しない。

   もう一度チャイムを鳴らす近藤。

近藤「すみません。梶浦先生……」

   ドアが勢いよく開く。

   不機嫌そうな顔で近藤を睨む梶浦緋冴子(45)。着物を着ている。

   少し驚く近藤。

緋冴子「なんや。やかましい」

近藤「梶浦松炎先生ですか? 突然すみません。僕は近 藤蒼磨と申します。雑誌の記者をやっております」

   近藤、名刺を緋冴子に差し出す。

   緋冴子、機嫌悪く名刺を受け取る。

緋冴子「(名刺を見ながら)……で? うちに何のようや」

近藤「ぜひ、先生の新作日本画【火炎】の取材を、僕にさせて頂きたいのです」

   顔を上げて近藤を見る緋冴子。

   煙草を口から離し、近藤の顔に煙を吐く。

   苦しそうにむせる近藤。

近藤「ごほっ、げほっ」

緋冴子「はあ? 火炎の取材はどこの雑誌にも新聞にもさせんって決めとんねん。帰れやクソガキ」

   荒々しくドアを閉めようとする緋冴子。

   片手でドアを止め、身を乗り出す近藤。

近藤「松炎先生、待ってください!」

緋冴子「何やねん。しつこいな!」

   必死な顔で土下座する近藤。

   ドアを開けたまま真顔で近藤を見下ろす緋冴子。

近藤「僕は以前、会社で大きなミスをしでかしました。首寸前だった僕に舞い込んできた大きなチャンス。こんな大ネタ二度と書けない! 僕の妻は今身重です。今会社を首になったら家族が路頭に迷うことになる。先生、お願いです! あなたのことを書かせてください!!」

   ドアを開けたまま、近藤を真顔で見下ろす緋冴子。

   不適な笑みを浮かべる。

   緋冴子、素足で近藤の顎を上げる。

   唖然とした顔で緋冴子を見上げる近藤。

緋冴子「ええやろ。うちのこと書かしたる」

   目を見開き、笑顔になる近藤。

近藤「ありがとうございます!」

緋冴子「ただし、条件がある」

   はっとする近藤。

近藤「条件……?」

緋冴子「見返りは……あんた」

   茫然とする近藤。

緋冴子「あんたも知らないあんたを見せろ」

   動かない2人。


◯緋冴子の画室・中

   上半身裸で仰向けになり、絶望した顔をしている近藤。

   近藤の胸元を辿る緋冴子の素足。

   緋冴子の足の指が近藤の乳首を摘まむ。

近藤「あぁっ……!」

   着物を着たまま不適な笑みを浮かべ、近藤を見下ろす緋冴子。

緋冴子「奥さんにこんなんしてもらったことないやろ」

近藤「なっ……」

   前屈みになり、近藤に顔を近づける緋冴子。

   緋冴子の髪が近藤の顔に少し落ちる。

緋冴子「どこ触って欲しいか言うてみい」

近藤「そんなこと……」

   緋冴子、近藤の股間をぎゅっと掴む。

近藤「あぁっ!」

緋冴子「うちのこと書きたないんか」

   緋冴子から目を逸らし、諦めたように目を閉じる近藤。

   邪悪な笑みを浮かべ、近藤の顔を手で自分に向かせると、深く口づける緋冴子。

   ×   ×   ×

   荒い息をついて、うつ伏せに倒れている全裸の近藤。

   緋冴子、着物を羽織って前だけはだけ、近藤の腰に

跨がっている。

   手を伸ばし、近藤の首を横に撫でる。

近藤「松炎先生、もう……」

   緋冴子、近藤の首に置いた手に力を込める。

近藤「うっ」

   怒った顔の緋冴子。

緋冴子「松炎て呼ぶな。閨でまで画号で呼ばれたないねん。緋冴子て呼べ」

近藤「……緋冴子さん」

   不適な笑みを浮かべる緋冴子。 

緋冴子「ええ子やね」

   緋冴子、指先で近藤の背をなぞる。

   身を固くする近藤。

   緋冴子、身を屈め、近藤の耳元で囁く。

緋冴子「あんたの中には、あんたも知らない炎が眠ってる」

   目を薄く開く近藤。

緋冴子「会社で上司にへいこらしとる時のあんた」

   ×   ×   ×

   (フラッシュ)

   近藤の職場。

   近藤、上司に苦笑いで頭を下げている。

緋冴子「家で奥さんのお愛想伺いをしとるあんた」

   ×   ×   ×

   緋冴子、近藤の腰を持ち上げる。

緋冴子「その全てを燃やし尽くせ」

   虚ろな目でされるがままの近藤。

   近藤、四つん這いになる。

   緋冴子、近くにあった筆立てから筆を一本取ると、近藤の尻を叩く。

近藤「うっ……!」

   邪悪な笑顔を浮かべて近藤を見下ろす緋冴子。

緋冴子「緋冴子さん、いかせてくださいって言え」

   はっとした顔で後ろを振り返る近藤。

近藤「なっ……」

   緋冴子、更に強く近藤の尻を筆で叩く。

   折れる筆。

緋冴子「あんたもこのままやと辛いやろ。緋冴子さん、いかせてくださいって女のように泣きながら請え」

   項垂れ、震え出す近藤。

緋冴子「奥さんと子供、路頭にまよわせたいんか」

近藤「(小声)……かせてください」

緋冴子「聞こえへん」

   顔を上げ、涙目になって苦しそうな顔の近藤。

近藤「緋冴子さん! いかせてください! あなたの手で、僕を跡形も無く燃やし尽くしてください!!」

   口の端を上げ、にやりと不適な笑みを浮かべる緋冴子。

緋冴子「よう言うた。今楽にしたる」

   近藤の股間に伸ばされる緋冴子の白い手。

   緋冴子、近藤の股間をしごく。

近藤「あっ……、はぁっ……!!」

   邪悪な笑みを浮かべる緋冴子。

   近藤を片手で押し、仰向けにする。

   近藤の腰を両手で固定し、股間に顔を近づける。

   はっとした顔で緋冴子を見下ろす近藤。

近藤「嫌っ……!」

   緋冴子、笑みを浮かべ近藤を見上げる。

緋冴子「嫌、ではないやろ?」

   近藤の股間を舐める緋冴子。

   歯を食い縛り、涙目になり目を閉じる近藤。

   両腕を交差させ、目を隠す。

   ×   ×   ×

   緋冴子、近藤の股間に股がり、腰を振っている。

近藤「あ……あぁっ……!」

   汗をかきながら不適な笑みを浮かべ近藤を見下ろしている緋冴子。

緋冴子「うちの中に、あんたの白い絵の具ぶちまけえや」

近藤「くっ……!」

   近藤、上半身を少し上げ、緋冴子の中に射精する。

   緋冴子、身震いし、体を前に倒すと、近藤に激しく口づける。


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火炎 木谷日向子 @komobota705

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