日傘の女

紫 李鳥

日傘の女

 


 足腰が弱くなって、めっきり出歩かなくなった妻は、二階のテラスから外を眺めるのが日課になっていた。


 その理由は、軽快に歩く、日傘の女を見るためだった。


 顔は見えないが、明るい笑顔が想像できた。


 散歩だろうか、買い物だろうか、いつも日傘を差していた。


「ほらほら、あの人よ」


 たまたま居合わせた夫に教えた。


「ほう。確かに軽やかな歩き方だ」


「私もあんなふうに歩けたら、散歩も楽しいだろうな……」


「うむ……」




 ところが、それから間もなくして、パタッと日傘の女を見なくなった。




 数ヶ月後。妻は、スタスタと軽快に歩いていた。






 生き生きと楽しそうに歩く妻を見て、外科医の夫は喜んだ。――

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

日傘の女 紫 李鳥 @shiritori

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ