MOMO太郎 〜NEXT STAGE〜

紫花 甩

第1話

「「桃太郎様万歳!!桃太郎様万歳!!」」



今日も子どもたちの叫ぶ声が聞こえる。

いつからこんな世界になってしまったのだろうか……

岸右衛門は今日も妻のフミと顔を見合わせて苦笑いする。



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それはある日の出来事だった。

桃太郎が鬼を倒して帰って来たのだ。

それはもう憎い憎い鬼をやっつけてくれたもんだから国中で歓迎された。

だが、桃太郎は驕り高ぶるようになった。

彼は鬼ヶ島で得た金銀財宝を使い、国中の人々をその手に収めた。どんな正義を唱える輩も桃太郎の手によって『粛清』された。それは彼の仲間であった『サル』『トリ』『イヌ』という愛称で民衆に慕われた者たちも例外ではなかった。

国家に反するつもりか!ってね。いつしか桃太郎は太政大臣となり名実ともにこの国のトップとなった。

勿論、反対した人々もいた。だが桃太郎はある者たちの手によってそれを『鎮圧』したのである。

『鬼』だ。

まさか皆も鬼を倒した奴が鬼と手を組むなんて考えもしてなかったから反対した人々はあっという間に蹴散らされた。

桃太郎体制に不満を持つものはいつしか外来語を使ってレジスタンスと呼ばれるようになった。

今では桃太郎によって情報統制されるようになり、寺子屋は指導要項が定められ国より直接派遣された教員が偽りの歴史と桃太郎伝説を教える場所になってしまった。

どうしてこんな世界になってしまったのだろう。今ではそう口に出す者も少なくなってしまった。



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岸右衛門の思案は帰ってきた息子の一朗の声にかき消された。

「おとーちゃん、おかーちゃんただいま!」

「あ、ああおかえり」「おかえりなさい」

「お父ちゃん!今日は桃太郎伝説の24ページ目をやったんだよ!」

「へぇそうか……」

「桃太郎様は魅力的な人だからって『サル』と『キジ』と『イヌ』に配下に入らせて下さいってお願いされたんだって〜」

「そ、そうか、そうだな」

「でもなんでサルとキジとイヌは反逆なんて起こしたんだろう?桃太郎様のお力を理解できていなかったのかなー?」

「そ、そうなのかもな」

いや、違う息子よ!そうじゃないんだ!

言いたいけれど言っては駄目だ。この時期の子供は純粋だから寺子屋の教員に何か言ってしまうかも知れない。お父ちゃんがこんなこと言ってたよ〜って……

もしそうなれば我が息子は国家の危機を救った英雄だ!と言われ、さらなる洗脳機関に入れられ桃太郎親衛隊に入るだろう。

だが、それと同時に私は『協生教育所』という名の強制収容所に入れられ、息子には逢えないだけでなく死ぬまで鬼のもとで働かされる……らしい。

こんなことにはなってはいけない。いや、してはいけない。

「……お父ちゃん?聞いてる?」

「あ、ああ聞いてるとも」

「そういえば!先生からお手紙貰ってきたよ!」

「何?!」

息子は鞄に手を突込み、少しヨレヨレになった紙を取り出した。

「これこれ〜」

「……なっ!」

その紙に書いてあった内容はこうだ。



2日後の昼頃。桃太郎様が西野町二番通りをお通りになられる。寺子屋にも寄られる予定のため。各自おもてなしの準備をされたし。



「………」

首に脂汗が浮かぶ。隣で手紙を覗き込む妻も汗を垂らしていた。

「不味いぞ……」

「ええ……」

隣の妻も思わずつぶやく。

「どうしたの?お父ちゃん、お母ちゃん?」

「な、何でもないぞ。お前は宿題でもやっておきなさい」

「はーい」

岸右衛門は息子が去って行ったのを確認するとため息をついてもう一度手紙に視線を落とす。いくら願っても内容は変わらない。

実はこんな噂があるのだ。桃太郎が寺子屋を見に来るのは将来自分の親衛隊に入れる者を抜擢するためだという噂が……。

もちろん噂話だ!と突っぱねたいのは山々なのだが、この噂はあまりにも現実味を帯びすぎていた。例えば……

「恐怖政治を敷いている桃太郎とはいえある程度忠義のある者しか引き抜かないはずだったよな?」

「ええ、そのはずだとは思うけれど……」

「フミは心配性だなぁ!一朗は大丈夫だよ大丈夫!」

フミの怯えを感じとった岸右衛門は安心させようとした。だが、岸右衛門も怖くない訳ではない。なぜなら桃太郎は気分屋であるという話も他にあるからだった。また何かうちの息子が気に触ることをして不敬罪て殺されてしまうこともあり得る。

(噂が本当ならば……逆にうちの息子は大丈夫なはず……!)


岸右衛門は不安を胸に抱きながらこの日は寝るのであった。

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