貰井さんと揚野さん

井上 流想

1話完結

貰井さんは何でも貰うことで有名です。


家には貰い物がいっぱいです。


ある日、友達が引っ越しをするというので、

手伝いに行きました。


山積みにされたガラクタを見て、


「貰ってもいいかしら?」


「どれも使えないものよ」


そんな事には気にせず貰井さんは喜んで持ち帰っていきました。


持ち手のないフライパン、


針がない時計、


壊れた体重計、


賞味期限の切れた缶詰、


取っ手のないスーツケース、


6年前のカレンダー、


錆びた包丁、


一本なくなった箸。


電気代の請求書まで貰ってきてしまいました。


貰井さんはご近所さんから貰った材料でお菓子を作りみんなを呼んでお茶会を開きました。


楽しい話であれば、ワハハと笑い


悲しい話であれば、しくしくと貰い泣きをします。


腹の立つ話では、ふんふんと鼻息を荒くし、怒ってみんなを帰らせてしまうのでした。


そう、貰井さんは人の感情まで貰ってしまうのです。


貰井さんが散歩をしていると、


「excuse me, where is the post office?」


貰井さんは外国語がとても気に入りました。


「貰ってもいいですか?」


外国の人は困った顔をして行ってしまいました。


挙動不審の男が女性のバックを持って走ってきました。


貰井さんはそのバックをひょいっと取り上げました。


男は後から追いかけてきた警察官に気づき逃げ去って行きました。


警察官が男の行方を尋ねると、


「I stole the bag」(私はバックを盗みました)


貰井さんは罪まで貰ってしまいました。


しかし、警察官は英語がわからなかったので、

再び男を追いかけて行ってしまいました。


一方、揚野さんのお話し。


揚野さんは何でもあげる事で有名です。


自分の家に届いたお歳暮から誕生日プレゼントまで全て人にあげてしまいます。


揚野さんの家には物がほとんどありません。


揚野さんもよく近所のお友達とお茶会を開いていました。


しかし、揚野さんの話はどれも人に不安や恐怖を与えるものばかりなので、みんなは

嫌がって帰ってしまうのでした。


とはいえ、そんな揚野さんの周りにはいつも猫やハトがいました。


ある日のことです。


貰井さんと揚野さんが出会いました。


揚野さんは何でも貰ってくれる貰井さんの事が気に入り、貰井さんも何でもくれる揚野さんの事が気に入って二人はとても仲良くなりました。


貰井さんが昔、子供を事故で亡くした事を悲しそうに話すと、揚野さんは自分の子供を貰井さんにあげてしまいました。


貰井さんは揚野さんから貰った子供を大事に育てました。


しかし、貰った子供が病気になってしまいました。


貰井さんは子供の病気を貰うことにして入院してしまいました。


それを知った揚野さんは、「私の命をあげるわ」と言って、空に飛んで行ってしまいました。


貰井さんは揚野さんの命を貰い、子供と一緒に幸せに暮らしました。



                                おわり

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貰井さんと揚野さん 井上 流想 @inoue-rousseau

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