おまけ ナノ

「ナノ、手出して」

「え? うん?」

 マキちゃんが握手を求めるように片手を差し出している。

 唐突だなあと思いながら、その手を握ろうとそろりと手を伸ばす。と、がしっという音が聞こえそうな素早い動きで、マキちゃんのその片手に手首を掴まれてしまった。

 そのまま。数秒間。

「えっと、マキちゃん?」

「……」

 マキちゃんは無表情で、目線もどこに向いているのか分からない。

 それから、ふうっと長く息を吐いた。

「マキちゃん?」

「ナノ」

「うん」

「お勘定」

 手首を掴んでいない方の手で、マキちゃんがぴっと伝票をつまみ上げる。

 わたしがそれを受け取るのと同時に、手首の拘束も解かれた。

「私、魔女になるから」

 にっと笑って、スカートを翻して、カラン、と軽やかな音を残して。

 それから二度と、マキちゃんが店に来ることはなかった。


 それから百年くらい経って。

 わたしはまた、マキちゃんと出会って。

 それから。

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僕は魔女 コオロギ @softinsect

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