SNS依存症

青出インディゴ

SNS依存症

 30代の女性会社員A子は、料理にハマったのをきっかけにSNSアカウントを開設し、同じ趣味の人たちとの交流を始めた。世界中の見知らぬ老若男女たち。始めのうちは礼儀正しく振る舞い、自分の時間を守り、楽しく交流していた。

 しかしよくあることだが、半年も経つと次第にのめり込み、料理そのものより交流の方が重要になっていった。たとえば、奇抜なオリジナルレシピ、味は二の次で見た目を重視した料理の写真。そんな投稿には「いいね!」マークが多く付く。「いいね!」が付くと他人からほめられ、存在を認められた気になった。SNSに費やす時間は日を追うごとに増えていき、ついには仕事中もスマホでアクセスするようになった。料理をするのも食べるためではなく、SNS投稿用の写真を撮る目的になっていった。そのため、作ったあと食べずに捨てるということさえしてしまっていた。

 SNS依存症になっていたA子は、ある日妙なことに気づいた。彼女が投稿した、あるオリジナル料理の写真。それとそっくりな写真が、別のアカウント(仮にXとする)でも投稿されているのである。気がついたのは、そちらの写真には「いいね!」が100も付いていて目立ったからだ。ひょっとしてパクリというやつでは? A子はにわかにカッとなった。Xに抗議しようとしたが、その前にもう一度見てみた。そして気づいた。その写真はパクリなどではなかった。A子の被写体と酷似してはいるが、微妙なところで違っているのである。器の角度、光線の具合。しかし料理自体は彼女が作ったそのものである。あたかもA子の隣にいた誰かが、彼女と同じ瞬間にシャッターを切ったかのようだった。

 背筋が寒くなり、Xのページを注意して見てみた。すぐに異常事態がわかった。Xの写真は全てが、A子の隣で撮ったかのような構図だったのだ。A子にはもちろんそんな人物に心当たりはなかった。Xの在住地、年齢、職業、どれを見てもA子とは一切関わりがない。

「なに、これ……」

 A子はスマホの画面を消した。今見た事実が何を意味するのかはわからないが、何かとてつもなく危険なものを感じる。

 黒い画面のままスマホが震えた。SNSにメッセージが届いたという通知だ。A子はおそるおそるスマホを取り上げ、SNSをチェックした。そこにはこうあった。

「おいしかったよ」

 差出人はXだった。

 それ以来、A子はSNSをやめてしまった。

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SNS依存症 青出インディゴ @aode

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