忘時ノ村

第1話 肝試し

薄暗い森の中の道を走る1台の軽自動車

助手席に座る慧は、代わり映えの無い木々の景色をぼんやり眺めていた

慧と同じ車に乗る友人たちが向かうのは地元では有名な心霊スポットの廃村

何でも、女子供の笑い声が聞こえたやら霊の姿が目撃されているやら…

慧は霊や神というものを信じていない。それでもこうして廃村に向かっているのは、車を運転している友人の強い押しがあったからだ

この友人、ヒロキは普段からネットで心霊スポットの情報を集めたり動画を見る癖に、根は遊園地のお化け屋敷で腰を抜かすほどの臆病者である

周りからは「冷めている」「冷静」などといわれる慧を連れてきたのも、彼に何かあった時の保険の為であろうことが容易に伺えた


「お、看板はっけーん」


ヒロキの声に正面を向けば、そこにはボロボロの看板に「この先200M、忘時村」と書かれている


「案外時間がかかったな」

「しょうがねーじゃん。普段こんな山来ねぇし、ナビは使えねぇし」


不満げに口を尖らせながらペシペシとナビを叩くヒロキに前を見て運転しろと言うと、慧は再び窓の外へ目を向けた

少しずつ木々が少なくなり、点々と壊れた古い家屋が見えてくる

慧の目を引いたのは、家屋の更に奥に僅かに見える赤い鳥居だった



赤塗りの小さな橋の前でヒロキが車を停止する


「この橋の向こうがぼうじ村だな。んで、この橋は「槐樹橋(えんじゅばし)」って言って夜は化け物が出ると言い伝えられているらしい」


少し早口で説明をするヒロキを置いて慧は車を降りる

真夏ではあるが夜であること、山の中であることが理由なのか空気はどこかひんやりしていた

慌てて下車し着いてきたヒロキを確認すると、ゆっくりと橋を渡る

小さな川は闇夜のせいか真っ黒で何も見えない


何処かで、鈴がひとつ鳴ったような気がした




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忘時ノ村 @dogvein

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