追加

「中々どうして難しいですね……」

「……お嬢様、このリボンは?」

「ラッピング用のリボンよ、クリスマスプレゼントの」

「包装紙等は……無いようですが」

「そうね、これは身体に直接巻きつけるから包装紙は無いの」

「…………それは」

「私が、巻くの」

「さ、左様でございますか」

「そのために今回わざわざ注文したの…・・・ベタと呼ばれるほどに、身体に直接巻きつけてプレゼントとするのは定番なのでしょう?」

「……そういう話は、まぁ耳にしたことはあります」

「えぇ、ですから手伝ってください」

「かしこまりました……その、それで僕は何を」

「……? 脱ぐのよ?」

「……はい?」

「私が、貴方を、これで、巻くのよ?」

「…………はい」

「一体何を想像したのかしら……準備できたようね」

「まずは、どこから?」

「そうね……私も人を縛るのに慣れてるわけではないから……まずは手首ね」

「……こうですか?」

「いえ、それじゃ向きを変えると抜けてしまうでしょう」

「……はい」

「そう、それで良いわ」

「…………」

「私の美的感覚で言えば、一本で全てを完結するのが望ましいですが……人を縛った事などこれが初めてですのでとりあえずここで切っておきましょう。えいっ」

「初め……いえ、なんでもございません」

「そう、もし余計な事を言ってたら口にも通すところだったわ」

「……それで、ここからは?」

「こういう場合は要所を隠すとポイントが高い、と聞きました」

「……要所、ですか」

「さあ、足を上げてください……そうです」

「その……縛る事そのものとかに関しては口を挟みませんが……この場合、要所を隠すのは困難では?」

「……物は試しですね」

「はい……」

「こう、下から通して……腰に巻いて……」

「っ……その、これだと……」

「まるでふんどしのようですね、色も相まってですが」

「……これで行きます?」

「いえ、洋風に仕立てたいのでこれは無しですね……っと、少し重ねる回数が多いですがこれで良いでしょう」

「上も……やっちゃうんですね」

「あえて隠すというのも乙ではありませんか?」

「そうかも、しれません」

「さて、プレゼントが完成しました。私も適した衣装に着替えましょう」

「……どこかに届けるのですか?」

「そうですね、その予定です……どうですこの衣装、今日のために仕立てたのですが」

「はい……良く、お似合いかと……」

「少し涼しげ過ぎる、かしら?」

「そうは思いますね……空調のあるところでないと厳しい、かと」

「後は胸元ね……少々息苦しいわ」

「…………」

「さて、どこへ届けましょうか」

「えっ?!」

「……驚きすぎでしょう? こっちまで驚いてしまいましたわ」

「いえその……決まってるのだとばかり……」

「決まっていません」

「でしたら……えっと、何故縛ったのです?」

「貴方をプレゼントにするというのは決定事項でしたから、先に決まっている作業を済ませたまでです……決まってから用意したら時間のロスが出ますでしょう?」

「……それはまぁ、そうですね…………」

「っと、そんな事を考えている間に日付が変わってしまいました」

「もうそんな時間ですか…………何故ベッドの上へ……?」

「寝る時間だからです……そして、そうなるとおやまあ。クリスマスのその時に、目を開けると私のベッドにプレゼントが置かれている、という事になりますね?」

「…………そもそも僕はお嬢様の所有物ですから、お嬢様へのプレゼントにならないのでは?」

「……そうではありませんね、包装されている以上中身は不明ですから。開けてみると私のものが入っていた、となるまではプレゼントです」

「はぁ……左様でございますか」

「プレゼントというものは、包装を解く前の中身を類推する時間も大事な楽しみの一つです」

「さて、プレゼントは一体何なのでしょうか? 形状は……ふむふむ」

「っぁ……」

「まぁ、触ると動くようですね」

「それはまぁ……そうですね」

「ですが、プレゼントの中身が正体を言ってはいけませんよ? それでは興醒めです」

「でしたら……我慢します」

「しかし、です。本来音を出すものが出さないというのはそれはそれでおかしい事でしょう? となると……適度に声を出してヒントになるようにするのがよろしいでしょう」

「……はい」

「さてさて……動く、音を出すまでは分かりましたが……どうしましょうか」

「…………」

「もちろんの事ではありますが……私はプレゼントを汚されたりするのは…………嫌いです、そのような事は無いとはありますが……」

「……っ、善処……します……」

「ふふっ、よろしい……さて、そろそろ開けましょうか」

「……その、開けますとお嬢様のものが確定してしまいますが……」

「確定? つまり中身は私が知っているまま、と?」

「はい……あっ」

「そう、つまり……変わっているところは無い、ということですね」

「いえそのっ……それは……」

「キチンと確認しないといけませんね、開けた後で"変わった"ところが無いか……」

「っ……そこは……」

「おやおや……どうやら、私が包んだ時と……随分様子が違いますね? 男子三日会わざればとは言いますが、まだ一日経っておりませんのに」

「そういう……問題では……」

「私に嘘をついて、それに……少し汚しているのでは……?」

「……はい」

「ただ……私も大事な、とても大事なことを忘れておりました」

「……?」

「配下のものに贈り物をするのは、とても大事な行事ですが……私としたことがそれを、忘れてしまっていたのです」

「…………」

「ちゃんと、日頃の苦労をいたわって褒美を与えるという、とても重要な義務を……すっかりと怠ってしまいました」

「はい……」

「はてさて…… このような場合、一体どうすれば良いでしょうか? そして……何を、プレゼントとするのが……相応しいでしょうか?」




「ところで……全く関係はありませんが、リボンはたっぷりと余っています……これもどうするか……悩むところですね?」

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しかしこのお嬢様、結局むっつりなだけである。 田島春 @TJmhal

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