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思わずボクはふりむいてしまった。
だれから聞いた、と言った?
どうしてこのバカには部活の記憶が、コーコーセーの想いが、ガクエンセーカツの記憶があるんだ。なんなんだ、こいつ、この違和は。どうしてこんなに、なにを本気で悩んでいるんだ、アンチのくせに――――ボクはバカの顔を見た、見あげた。
顔に、メガネの黒ぶちに沿うように傷があった。さっきまではなかった傷があった。血がにじんでいた。うっすら赤い。痛そうだった。土手を転がったときにできた傷。赤い傷。
そうか、バカは――思わずボクは、手を伸ばす。ボクがつけた傷へと、思わず手を伸ばしている――血のあたたかさを、確かめるために、ボクは手を伸ばしている。
手が、届く。
その時、妙な声が、聞こえた。土手の南のほうから、声がやってくる。大きなかけ声だ。ほら、だんだんと近づいてくる。
おーやっほいやっほいやっほい。おーやっほいやっほいやっほい。
「やっべ」
つぶやいて、アサダテツヤは立ちあがって土手の上の、舗装された道へと、走る、駆け出す。
かけ声の、同じジャージを着た集団に合流する。集団は速度を、少し落とす。先頭の背の高い、たぶん三年生が大声で、
「なにしてた?」
彼はにへらにへら笑いながら、
「いや、義足の調子が」
「おいおい一週間休んだだけでそれか? アンチのほうがよかった、なんて言わせるなよ?」
「もう大丈夫っす、走れます」
言って、彼は最後尾につく。
集団は走り出す。
声が、風に負けずに、響く。
最後尾、彼がふりむく。後ろ向きで、器用に走り続ける。
「わりい、また明日、学校で、必ず!」
必ず言うから――そう言って、アサダテツヤは胸の前で両手をあわせてみせた。
ボクは立ち上がる。土手の傾斜に合わせてバランスを取って、立ち上がる。
胸ポケットからキャンディを取り出して包みを開けて口に含んでがりがり噛み砕いて、彼のほうを見て、それから、もうすぐボク/アタシはサヨナラを言う。
もうすぐボクはサヨナラを言う 川口健伍 @KA3UKA
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