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 ほら、おれさ、杉山と中学違うじゃん。家も、河向こうだし。義足のリハビリでガクエンセーカツ、っていうのにもブランクがあったしさ。だから知らなくて。

いや、でもそれを無神経だったことのエクスキューズにはできないってのは知ってるけど、ね。それは、さ。おれだってわかるよ。

 最初は聞きまちがいかと思ってさ、だれか男子でも茶化して「ぼく」って言葉が出てきたのかと思ったけど、別にそんな雰囲気で杉山と結城と浅川が話してる感じでもなかったし、それでおれ、気がついたら聞き耳たてて、杉山がボクって言うのが聞こえたんだよなぁ……、ほら確か昼休みで、さ。がんばったよ、近くじゃあバカやってるやつもいてすげぇうるさかったし。ほら、やっぱり女子が、っていうか女の子がボクって言ってるのは不思議なわけですよ、なんかね。好奇心っていうのは抑えられない年頃でして、ね。ついつい、訊いてしまったわけですよ。

 ――にしても、あん時はほんと驚いた。結城と浅川は真っ青になってるのに、杉山だけ、妙に自然体でさ。周りは動揺していないことをがんばって隠そうとしてるのがもろバレで、それが伝染して、昼休みのうるさかったクラス全体がなんか同じベクトルでおろおろし始めて、でもどうやらおれだけが事情を知らないみたいで、なんか悔しくて、さ。だから言ったじゃん、あれは傑作だったなぁ、まだ憶えてるしね。

「なんだよ、おれだけ仲間外れかよ。おれにも教えてくれよ」

 インフォームド・コンセントは大切だ、っていうスタンス。ほんと笑えないよなぁ。

 そうしたら胸ポケットからアメ玉出して口に含んで、平然とした顔で言うじゃん、杉山。右足が払われて――気がついたら肩が極まってて動けなくて、全然動けなくて。でも背中に杉山がいることがわかって、顔が近づいたのがわかって、女の子のにおいがして、おれの耳元でぼそぼそって、杉山。

「ボクは護身術。ボクは男の子じゃないと――」って。ぞくぞくした。話の中身も、そうだけど、ぞくぞくした。だからなんとか顔を見てやろう、って思って首をひねって、見た。

 そんとき、おれは謝らなくちゃいけない、と思った。ここで自分の無神経さを諧謔でごまかすのは卑怯だ、って思った。おれのほうがお兄さんなのに、年上なのに、長く生きてんのに、ってさ。でも、ほんと今日も、さっき……殴られたしさ、まだまだがきんちょですよ、ほんと――お、驚いたな。なにも言わなくても、わかるぞ、空気、動いたし。

 説明しよう、ケガ自慢だ。まぁこれも悪趣味だけど、さ。中三の夏に発病。入院に一年。リハビリに一年。正味二年間、医療企業体にいたことになるかな。だから単純にふたつは、年上だな。足の腫瘍はうまく切除できたんだけど、そのあとの義足との神経接続マッチングが思うようにいかなくて、あそこはいくらでもわがまま言っても決して誰も見捨ててくれなかったから、ほんといい場所だったし、このままずっと居座ってやろうかなぁって、思って駄々をこねてたら復帰計画プログラムが発動してて、あれよあれよという間に、けっきょく高校生やってるし、ね。おれってほんと。

 いや、でもまんざらじゃねぇんだよ、コーコーセーってのも、さ。

 ほら、義足でも、バスケができるって言われたら、やってみたくなるじゃん。前みたく走れるって言われたらさ。正直そろそろ読書するのも飽きてきてたし、リハビリじゃあ使わないような筋肉も使ってみたかったし。中学の時はベンチウォーマーのスコアラー止まりだったから。こんなんじゃ治らない治らない治らないよっ足は元に戻らないよっ、って泣いてるみたいなのはなんていうか、おれじゃない感じもしてたし、さ。こんなの違うよなぁって。いまはなんとか、足も言うこと聞いてくれてるし、スリー・ポイントも入るようになったし、ディフェンスもザルってわけじゃないんだぜ。いや、護身のほうはあいかわらずぼろぼろだけど、さ。

 まぁ――それで学校行って、無神経さをばらまいて、いま、ここにいるようじゃ変わらねぇよ、ガキだよ、マジで。

結城の糾弾もそうだったけど、浅川の同情の方が正直きついんだ。

 なぁ、杉山、おれのことが嫌いなのはアンチからも聞いてたし、今日のでもよくわかったけど……なぁ、だから――頼むよ、こっち、見てくれ。

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