独裁者の異世界闘争
若宮 夢路
エピソード1 恥まり
まぶたの向こうからとても強い光を感じた。首のうしろがチクチクしていて自分は草むらに横たわってるいることがわかった。目を開けると太陽の眩しさで目の前が真っ白になったがすぐに青い空と白い雲が目の前に広がった。横になっていた体を起こすと自分が広い草原の丘上に座っていることがわかった。立ち上がってみると灰色の足首程度丈のまであるコートは少し暑いように思えた。
私は立ち上がるとフラフラと歩き出した。
空はとても濃い青色で住んだ空気はまるで天国のようだった。私は地下壕にいた頃からここで目が覚めるまで記憶がなくなっていた。私の作り上げた祖国はどうなったのであろか。
しばらく歩くと私は自分がいる場所が広い草原ではないことを知った。四方を川に囲まれたいわば中洲のような地形であることを。
幸いなことに川はそれほど深くなく私の丈の長いコートが濡れることなく簡単に渡河できてしまった。川の向こう側は針葉樹が生い茂る森になっていた。木の隙間から陽の光が差し込み、まるで童話の中にいるような気分になった。
またしばらく歩いていると自分が空腹である事に気が付き、自分は死んであの世に居るわけではない事を改めて確認させられた。
ガキッ
自分の後ろで枯れ木が折れる音がし、私は反射的に後ろを向いた。
そこには白く大きな狼が凛としてたたずんでいた。普段なら真っ先に逃げていただろうが、突然こんな場所で目が冷めた私の精神状態は以上でその大きな狼と目を合わせると、とても神聖な気持ちになった。
「貴様はどこから来た」
美しい女性の声で大きな狼は私に語りかけてきた。
「気づいたらここにいた。それまではベルリンの防空壕にいた」
「ついてこい」
大きな狼はそう言うと私の横を通り過ぎ、私の後ろへ行くと後ろを振り返り私を見た。私はその大きな狼の向かった方向へともに足を進めていった。
「君は一体何であるのか?」
しばらく歩いてから私はその大きな狼に問いかけた。
「私はフェンリル。ただの狼だと思ってくれたらいい」
「私はアドルフ・ヒトラー。ドイツ第三帝国の総統であった」
「貴様はこの世界の住人では無いだろう。なぜここに来たかは知らないが貴様からは邪悪な何かを感じる」
私はこの大きな狼が神話に出てくれる獣であったことを非常に驚いた。それとともに彼女に邪悪な物を感じ取られている。
「私は多くのユダヤ人とドイツ国民、そして敵国の人間を殺してきた。邪悪なものがあっても不思議ではない」
「貴様は国の政治に関わるものだったのだろう。ならば戦争で自国の国民が死ぬこともあるはずだ」
「君の言うことは正しい。ただ私はその犠牲に見合うものを作り出せなかった」
「人間はすべてがすべて万能ではない。ときに失敗もあるだろう」
「そうだとしても私は殺しすぎた。私は今自分のやったことに疑問をいだいてる」
「貴様は先程、自国民と敵国の国民の他にユダヤ人と言った。そのユダヤ人とはなんであったのか?」
「ユダヤ人は憎むべき人種でナチスの敵である」
フェンリルは立ち止まって私の顔を見つめるとすぐにまた前を向き歩きだした。
「ならば何故貴様は怒りや憎しみを抱いていない。貴様の心内は後悔であるだろう」
「伝説の獣は何でもお見通しという事か。若かりし私は歪んでいた。自分の不甲斐なさをすべて社会のせいにしてしまっていた。もしあのときローザとの文通を止めていなかったら私の考えは正常な考えに変わっていたのかもしれない」
「貴様に教えるべきことがある」
「まず貴様がここに居るのは貴様に成すべき事があるからだ。汝の成すべきことを考え過ちなく実行しろ。それが貴様の罪を償う方法だ」
「成すべきことか。深く考えてみることにする」
そうやって私がフェンリルと話していると森を出て広い丘陵地帯に出た。丘下には城壁に囲まれた街が見えた。オレンジ色の屋根は太陽の光を反射し明るく輝いていた。
独裁者の異世界闘争 若宮 夢路 @wakamiya_yumezi
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