第12話 続池袋へ

 とらのあなを出て俺達は池袋を歩く。

 先ほど四階のBLコーナーにてサキュバス族のアーニャ……シリラの知り合いらしいが退治してきたところだ。

 ついでにシリラも倒してしまったのだが。


 シリラは未だに鼻血が止まらないようで鼻にティッシュを入れている。

 ちょっと心配になってきたな。


「どこかで休むか?」

「う、うん。ごめんね、なんか迷惑かけちゃった。アーニャ大丈夫かなぁ?」


 大丈夫だろ。先ほど彼女をポータルまで送ってきたところだ。

 アーニャもまだ鼻血が止まらなかったようだが、創作意欲が掻き立てられた!と握手を求められた。

 一度淫魔県にある自宅に戻り新しい百合本を書くとか言ってた。

 ついでになぜか師匠と言われたのだが。


「ま、前島さんはなんであんなこと知ってたの?」


 あら、シリラの顔が真っ赤だぞ。

 しまった、もしかして未成年だったかな?


「ご、ごめん。変なこと言っちゃったか?」

「だ、大丈夫! これでも大人だしさ。でもどうしてあんなこと知ってたのかなって……。彼女とかいたの? その人にあんなことを……」


 いえ、至ってノーマルです。

 でも普通に生きてきたならば、その手のエロ知識は自然と身に付くもんだ。

 

「そ、そうだったんだー。良かったよ……。ん? でも彼女はいたってこと?」

「んー。何年か前に別れたけどね」

 

 シリラはその話にグイグイ食いついてきた。

 なんだよ、男の恋の話なんて聞いても面白くないだろうに。

 ちなみに彼女と別れた原因は単純に価値観の不一致にある。

 特に浮気とかではなく平和的にお別れしたのだ。


「へぇー。寂しかった?」

「まぁね。でもお互い話し合って納得した結果だから。もうなんとも思ってないよ」


「前島さんって大人なんだね……」


 まぁ俺の歳はお兄さんからおじさんに変わるちょうど境目ってところだからな。

 そんなことを話しながら池袋の町を歩く。


 シリラもどうやら鼻血が止まったようで。

 それじゃ次はどこに行くかな。

 

「なぁシリラ。どこか行きたい……」


 ――グゥー


「ち、違うの!? 別にお腹が空いたとかじゃ……」

「いや、俺も腹減ったな。よし、飯にするか」


 さて、どこかに美味しそうなお店はないだろうか。

 シリラも池袋は初めてのようだし、詳しくは知らないみたいだな。


 よし、こういう時はホテルに行こう。


「え!? ホ、ホテルって!? わ、私はまだあんたに体を許すつもりはないんだから! さっき言ったみたいなことする気なの!? エロ同人みたいに!?」

「殴るぞ」


 あのなぁ、ホテルってところは宿泊だけじゃなくて、レストランもあるんだぞ。

 それに平日ならランチブュッフェをやってるところも多いし。


「へぇー。そうなんだ。で、でも高いんじゃないの? 私、あんまりお金持ってなくて」

「知ってる。さっきBL本買いまくってたしな」


 シリラのお財布には残り千円しかないはずだ。

 っていうか、給料日までどうやって生活するつもりなのだろう……。


「金のことは気にするな。行くぞ」

「う、うん……」


 ――ギュッ


 ん? シリラから手を繋いできたぞ。

 ホテル周辺はあんまり人がおらず、迷子になることはないと思うんだけど。


「あ、あの、繋いでていい?」

「もう繋いでるじゃん。別にいいよ」


 そのままホテルに向かうことにした。

 受付にはレストランの案内が書いてあり、予想通りランチブュッフェもやっている。


 パンフレットを受け止めブュッフェをやっている展望レストランに繋がるエレベーターに乗る。


「う、うわぁ。一人五千円って……。や、やっぱり止めようよ。前島さんに払わせるなんて悪いよ……」

「ははは、今さら何言ってんだよ。シリラには散々迷惑をかけられてきた。今さら借りが一つ増えたくらいで気にするなって。それに高いものを食べるのは勉強にもなる。シリラもただ食べるだけじゃなくて、ホテルで働いてる人の立ち振舞いとかを見て勉強するんだ」


「は、はい。店長!」

「んー。プライベートで店長は止めて欲しいな。ほら着いたぞ」


 エレベーターを降りレストランに向かう。

 二人で一万円と少々お高いが、やはり美味しかったな。

 シリラも最初は緊張していたが、次第と慣れてきて料理をしっかり味わったり、従業員さんの立ち振舞いを観察していた。


 お腹いっぱいになるまで食べて、軽くデザートを摘まみ、俺はエスプレッソを。シリラはダージリンで締めることに。


「ふぅー。美味しかった……」

「だな。どうだ。勉強になったか?」


「うん! 動きもすごく綺麗だった! かっこ良かったね! 私もやってみる!」


 うんうん、勉強熱心なのはいいことだ。

 可愛い従業員がやる気を出してくれるのは上司としても嬉しい。


「よし、今度お客さんに誉められたらご褒美にまた連れてきてやるよ」

「ほ、ほんとに!? で、でも……」


 でも? シリラの顔が真っ赤なんだが。


「でも……。こ、今度はレストランだけじゃなくて、泊まってみたいかも」

「いや、池袋なんて近所だろ。歩いても帰れるぞ」


「もう! そういうことじゃなくて!」


 シリラはなぜか怒ってしまった。

 でも帰り道でもむっつり怒りつつも、俺の手を握ったままだった。


 母さん、女の子……いや、シリラってよく分かりませんね。

 でも面白い子です。今度母さんに会わせたいと思います。

 

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お隣さんはベルゼブブ(雌) 骨折さん @ashiitai

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