第11話 アーニャ

 なんかシリラと池袋にあるとらのあなに来たらサキュバスがいた。

 シリラの知り合いっぽい。

 とりあえず挨拶しておくことにした。


「初めまして。シリラの上司の前島です」

「ご、ご丁寧にどうも……。っていうか、なんで私の姿が!? あなた人間でしょ!?」


 アーニャは驚いているようだが、何故俺に幻術が効かないのかはめんどいので適当に話しておいた。

 それよりも何故とらのあなに魔族がいるのだろうか。

 

 確かシリラのお母さんであるフィオナさんの話では魔界から日本に繋がるポータルは全て閉じられてしまったと。

 彼女がここに来られるはずはないのだ。

 

「え? だって私、魔界から来たんじゃないんだもん。隣の淫魔県から来たんだよ」

「群馬県みたいに言うな」


 魔界ってのがよく分からなくなったな。

 魔界と淫魔県は隣り合っているらしい。

 東京と群馬みたいなものだろう。

 魔界のポータルは閉じられているが、淫魔県では自由に日本に遊びに来られるらしい。

 なんだ、魔界。やりたい放題だな。


「そ、それにしてもシリラが男を連れて出歩いているなんて……。許せない! 蝿のくせに私より早く彼氏を作るなんて許せない!」


 ――カッ!


 えー? なんかアーニャの目が光ったぞ。

 そして彼女の背後からどす黒い……いや、ピンク色のオーラが出始めたんだが。

 そして俺はシリラの彼氏ではない。

 失礼しちゃうぜ。


「奪ってやる! シリラから全てを奪ってやる! お前を私の下僕にしてやる! 人間よ、私の魅力を前に跪くがいい!」


 ま、まさか魔法を使うとか?

 サキュバスってたしかエッチな魔物なんだよな。

 俺を魅了する魔法をかけるとか?


「ちょっと待っててね。ほら!」


 ――パサッ


 ん? アーニャは魔法はかけずにカバンから一冊の本を取り出し俺に見せてくる。

 んーと、なんか女の子達がエッチなことをしている内容だな。

 百合本かな? 


「ど、どう?」

「どうとは?」


「ま、まさか効かないというの!? この本は私の魔力の全てと愛と情熱と汗と涙と愛え……」

「アーニャさん、ストップ」


 最後に言ってはいけない単語を言いそうになったろ。

 騒ぎを聞きつけたシリラも戻ってきた。

 そしてアーニャが書いたのかどうなのか分からん百合本を手に取って……。


「う、うわぁ……。エッチだぁ……」


 シリラは百合本も好きなようだ。

 彼女は百合本を見つめて動けなくなってしまった。

 もしかしてこれが魅了魔法なのかな?


「本当はシリラみたいになるのが普通なの?」

「そ、そうよ! でもなんであなたには効かないのよ!」


 と申されましても。

 しかし本当のことを言っていいのだろうか。

 まだ昼間だしなー。

 しかしアーニャはサキュバス以前に百合本を書く創作者でもあるようだ。

 クリエイターにならば男目線からアドバイスしなければならないだろう。

 まぁ、彼女の書く百合本は綺麗な性を描いているようだが、現実的ではないように思えた。


 まだ昼間だし、屋内なのでこっそりアーニャの耳元で囁く。


「君の本だけど……。おっぱ……を舐め……じゃなくて……。あそこを攻める……にお尻を……。指は三本入れ……。ぐちゃぐちゃに……。これくらい書くともっとエッチになると思うぞ」

「な……? なんてことを……」


 ん? 俺のアドバイスを聞いたアーニャだが。

 

 ――ブバッ!


 鼻血を出して倒れたんだが!?

 そしてアーニャの魅了から解かれたシリラはこんなことを言ってきた。


「す、すごい。まさかサキュバスを性知識だけで倒すなんて……。ま、前島さん、何を言ったの?」

「いや、普通のことだけど」


「わ、私にも聞かせて!」

「えぇー?」


 いやね、俺はエロも芸術の一つだと思ってるわけだよ。

 百合本もBL本もエッチな気分にさせてなんぼだろ?

 ならばより良いものをさらに書けるようにアドバイスをしてあげただけなのだ。

 

 まあ、シリラもしつこく聞いてくるので、どんなことを言ったのか話してやると。


 ――ブバッ!


 シリラも鼻血を出して倒れたんだが。


「うぅ、ママァ、人間怖いよぉ……」

「エッチだぁ……。前島さんはエッチだぁ……」

「失礼な。普通だわ」


 母さん、今日俺は淫魔を倒しました。

 ついでにシリラも倒してしまいました。

 エッチ呼ばわりされました。失礼ですよね。

 

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