どうやら異世界ではないらしいが、魔法やレベルがある世界になったようだ 『ルナ転移編』

ボケ猫

第1話 ルナ転移編



黒い闇を抜けて視界が開けてきた。

石造りの街が見える。

どうやら転移は成功したようだ。


私のところに似ているな・・・。

そう思う。

だが、すぐにその考えを修正。


頭上を飛行機が飛んでいた。


何だ、あれは?

大きな音をたてて飛ぶ飛行物体。


!!!


「魔素を感じないぞ・・・何だこれは? この転移先の世界では、物体に魔素を感じない・・」


漆黒と言っていいほど黒い長い黒髪。

風に揺れて、黒色なのに光ってるような感じだ。

目は大きく、その身体は艶めかしい雰囲気を自然と出しているという感じだろうか。

一言でいうなら、色っぽい。


胸は身に着けている服が窮屈そうな感じだ。

黄金比という比率を適応することすら無意味なほどに、そのスタイルはバランスよく整っている。

長い脚、しなやかな腕。

その腕を前で組み、何やら思いふけっているようだ。


ルナ。

夜の神の加護を受けたヴァンパイア。

アニム王と対を成す夜の王。


転移したところはイタリア辺りだろうか。

ルナは知る由もない。


街並みからそう思える。

街は魔物の通過の後だろう・・・

あちこちで建物が壊れている。

トレビの泉なのか・・噴水だったと思われる瓦礫があった。


ルナは腕組を解き、辺りをゆっくりと見渡した。

「・・やはり、どの建築物も魔素を感じない。 何という非効率な世界なのか。 それに、この魔素の濁りと気持ち悪さ・・・吐きそうだな」

そう思っていると、声をかけてくるものがいた。

「ルナ様~!!!」

こちらもルナほどでないが、地球基準では超絶美人だろう。

サキュバスのウルダだ。

「おぉ、ウルダ・・貴様も一緒に転移してきたか」

「はい、今転移してきたようで、近くにルナ様の魔素を感じたので駆けつけてきました」

「そうか・・ありがとう」

「いえいえ、どういたしまして・・・

しかし、ルナ様・・この転移先、何ですかね、この気持ち悪い魔素の流れは・・・」

ルナと同じように感じている。

「わからぬな。 ただ、どの建物にも魔素を感じない」

「・・・うわ! ほんとうですね・・バカな人種が住んでるんですかね~」

軽い口調だ。


ルナも軽く微笑んだ。

「ルナ様・・これからどうします? 我々が転移してきているということは、光の神の使途、アニム王もいるはずですが・・」

「・・そうだな・・とりあえず、アニムでも探すか・・・」

ルナとウルダはそういうと、辺りを探りながらとりあえず歩き出していた。


「ルナ様・・これだけ魔素が乱れていては、どこに誰がいるのかもわかりませんね」

「あぁ、ただ、強い魔素が集まる場所など、普通と違う流れのあるところを探していけば、アニムに出会えるのではないかと思っている」

「さっすが~、ルナ様。 では、出発しますか!」


ルナが歩いていると、大きな魔素が近寄ってくる。

ルナがステータス画面を確認してみると、基本スキル以外が失われいた。

ただ、自分の属性の魔術スキルは残っているようだった。

ルナ:レベル51、ウルダ:レベル41。


「ウルダ・・ステータスを確認したか? 基本以外、ほとんど失われているぞ」

そう言われて、ステータスを確認してみる。

「うわ、ほんとですね。 でも、そのうち回復してくるでしょう・・」

ウルダはどこ吹く風だ。

「・・・お前、軽いなぁ・・・」


少し歩いていると、魔素の大きい魔物と遭遇した。

サイクロプス:レベル41。

おそらくこの辺りの破壊者だな・・・

ルナはそう思った。


「・・サイクロプスか・・知性のかけらも感じぬな」

「ルナ様・・」

「問題ない」

ルナはそういうと、手をサイクロプスに向けた。


「グラビティ!」


サイクロプスの動きが遅くなった。

重力を操る魔術だ。


ルナはそのまま手のひらをグッと閉じた。


サイクロプスがその場で動かずに、きしみだしたと思うと、一気に周囲の空間がしぼむのと一緒にいなくなった。

小さなブラックホールを作ったようだ。


しばらくして、魔石が残っていた。

ウルダが魔石を回収してアイテムボックスにしまっていた。

「ルナ様、アイテムボックスは使えるみたいですね」

ルナはそれを聞きつつ、魔素の動きを見ていた。


アニム・・どこにいるのだろう。

フトそう思っていた。

転移前の世界では、単に対の存在だと思っていたが、こうやって環境が変わってしまうと、何やら心のよりどころのような感じがするのは、気のせいではあるまい。

もしかして、私が人を求めているのか?

まさかな・・。


すぐさま、その考えを消して歩き出す。


「ウルダ・・こちらの魔素の動きの方へ行ってみようと思うのだが・・・」

「そうですね・・私はルナ様についていくだけですよ~」


移動速度を速めてもよかったが、なんだかゆっくりと移動したい気分だった。

魔素の流れを感じると、とても疲れるが、それ以外はとても素晴らしい自然を感じることができた。

きれいな月が見えている。

とてもきれいだ。

風も気持ちいい。

ただ、魔素が気持ち悪いだけだ。


月明かりの下、動く影を捉えていた。

5人ほどの人間が前から歩いて来る。

どうやらこの星の住人のようだ。

みな、傷つきつつも、品性をあまり感じない雰囲気だ。


「お姉さんたち、こんな状況でどこへ行くの~?」

「俺たちが護衛しようか?」

「俺達、人を超えたというか、本物の冒険者になったのですよ」


男たちは、ゲーム仲間でゲームをしていた。

e-sportsのメンバーだった。

ステータス画面を見たときには驚いたが、すぐに適応できた。

街の外を徘徊する魔物を、チームで倒しながらレベルを上げていった。

全員がレベル10を超えていた。

職業も、戦士、魔法使い、回復系など、バランスよく整えている。

さすがゲーマーだろう。


男たちが魔物を倒して、街を徘徊していると、きれいな女の人が見えた。

一人が皆に知らせると、全員があまりの美しさに驚いた。

これは男として声をかけねばならない。

こんな美女を無視したとあっては、男じゃない。

全員一致で決まった。

この状況で外を歩いている女の人がいることに疑問を抱いたものはいなかった。

疑問よりも、目の前の美女にすべての考えが吹き飛んだ。


男たちがルナに近寄ってくる。

ウルダがやや前にでて、それを制止しようとしたが、ルナに構わないと言われた。

「しかし、ルナ様・・・」

「いいではないか。 この世界の先住民族なのだろう。 敬意を払ってやろう」

ルナは本気でそう思っていた。


我々が勝手に、自分たちの都合で転移してきたのだ。

迷惑をかけてはいけないだろう。


「・・男たち・・私たちの護衛は要らぬよ」

ルナはそう答えた。

その声に男たちは震えた。

とても気持ちの良い響きの声だ。

心が溶けそうだった。

ルナは別にチャームなどのスキルは行使していない。

普通に話しただけだ。


元々の声質なのだろう。

男たちは、当初は本当に護衛しなきゃと思っていただろう。

だが、その声、その姿が近づいてくるに従って、欲望が沸き起こるのを感じていた。


二人とも上玉だ。

それにあの黒髪・・たまらねぇ。

皆が顔を見合わせながら、無言で意見が一致した。


「「「「「いただいてしまおう!!」」」」」


ルナの前、3メートルくらいまで近づいてきた。

揺れる黒髪が、男たちの自制心を限界まで引き下げた。

「・・たまらねぇなぁ・・・」

「あぁ・・我慢できないな・・・」

「俺なんて、もうギンギンだぜ」

「そうだな・・野外だが・・月明かりで犯すのもいいものかもな・・」

勝手にそんなことを口走っていた。


「・・・お前たち・・臭いな・・」

ルナは冷たい目線で男たちをみる。

男たちはそれをOKサインと勘違いしたようだ。


リーダーらしき大柄の男が手を伸ばしてきた。

「おい、お前・・ずるいぞ! 俺が先に・・・」

男どもが殺気だってきた。


ウルダが一歩進んで、男どもを全員吹き飛ばす。

「無礼者!!」

本来なら仕留めているところだが、ルナ様が先住民族に敬意を払うと言っていたので、抑えたのだ。


男たちは3メートルほど吹き飛ばされて、尻餅をついていた。

「な、なんだ?」

「あの女、レベル持ちか?」

「チッ!」

「おとなしくしてれば、痛い目をしないで済んだのにな・・」

「あぁ・・そうだな」

男たちは戦闘態勢に入ったようだ。


戦士職の男が前に出たのだろう。

タンク役をやるようだ。

そのやや左後ろにアタッカー役の人物だろう、ナイフらしきものを持っている。

タンク役の影に隠れるように、魔法使いが2人並んでいた。

最後尾には回復役だろう男がいる。


なるほど・・考えてはいるのだな・・。


「おい、そこの男ども・・戦うというのなら容赦はしない」

ウルダは一言いう。


男たちは失笑した。

「・・容赦しないか・・」

「そりゃ、こちらも容赦しないな・・」

下種な笑い声が聞こえる。

「気の強い女は、調教し甲斐がある」

「あぁ、そうだな・・・俺があの黒髪をいただくか・・」

「いや、俺が先だ・・お前は後にしろ」

「いやいや、俺が先にもらうぞ・・」

卑猥な笑い声とともに魔法使いが魔法を放った。


火の矢がルナとウルダに降って来た。


ルナたちは動くこともなく、その場で男たちを見ている。

ウルダも動くことはない。

火の矢がルナたちに刺さったと思った時に、すべてはじけて消えた。


!!!


男たちは驚いたようだ。

「な、なんだ?」

「あの女・・ファイアアローを弾いたぞ」

「まさか・・・魔物たちはほとんどあれで倒れたのに・・」

「チッ!では、これでもくらえ!!」


今度は、風の刃と石の礫が同時に飛んできた。

「もったいないが、少し傷物にしても、いただけるだろう!」

男の誰かが言っていた。


この魔法も同じように弾かれて消える。


男たちは言葉を失った。


ルナが言葉をかける。

「おい、お前たち・・まさかこれが魔法だとでも思っているのか」

ウルダは横でクスクス笑っていた。

「・・ルナ様・・・この先住民族の生活魔法じゃないですかね?」

そういうと、ウルダがゆっくりと歩いて行った。

男たちは身構えた。


女は見た目はとても華奢きゃしゃで、とうてい戦闘などできるはずもないだろうと思える。

モデルでもやってたんじゃないかと思ったほどだ。

一人の男が目を大きくして身体を硬直させていた。

ウルダが、どこから取り出したのかわからないが、大きな斧のようなものを持っていた。

どう考えてもありえない大きさだ。

パッと見ただけでも男たちよりも大きい斧。

それを片手に肩で担いでいる。


その斧を右手で軽く回転させて、きちんと持ち直した。

「さて、ルナ様に無礼を働いた報いは、受けてもらいますね」

そういうと、一気に駆け出す。

男たちに動きが見えるはずもない。


斧が軽く振るわれた。

魔法使いがいたであろう地面が、大きく地割れを起こしていた。

その地割れがかなり先まで続いている。

その直後、地面が揺れ出した。

衝撃が後から来た。

男はその揺れで立っているのがやっとだった。


先頭にいたタンク役の男以外は消滅していた。


「あっれ~? もろいですね」

ウルダはそういうと、もう1度斧を振るおうとした。

「待て!」

ルナがそういうと、ウルダは斧を止めて、一歩下がった。


ルナがゆっくりと歩いて来て、男の前に立つ。

「・・人間・・分をわきまえよ」

そう言って、ルナが手を男に差し出した。

ルナの手が男の額に触れる。

その瞬間に男は枯れ木のようになった。


ライフドレイン。


ルナは男の生命エネルギーを一気に抜き取った。

「・・・ゲッ・・まずいな・・やはり返そう・・」

そういうと、男はまた肌が通常の状態に戻った。


男は片膝をついてその場にしゃがみこんでしまった。

はぁ、はぁ、はぁ・・・・

「いったい、何が起こっているんだ」

ゆっくりと後ろを振り向いた。

・・・・

誰もいない。

ウルダが斧を担いでこちらを見ていた。


「・・人間・・・先住民族だと思ったから、寛大でいてやったが、いきなり攻撃を仕掛けてくるとはな。 無礼が過ぎるぞ」

ルナはそう言うと、男の方に手をかざした。

手のひらから黒い炎が沸き起こる。

風が吹き抜けるように、男を炎がまとったかと思うと、後には何も残っていなかった。


「ルナ様・・お疲れさまでした。 それにしてもこの先住民族、相当知能が低いのでしょうか?」

「・・・わからんな・・・」


二人はまた歩き出した。

魔素は洪水のようにうねっている。

そんな中でも、きれな流れのようなところを感じることはできる。

そういった方向へと向かいつつ、大きな塊を感じながら移動していた。


地球地図では、イタリア辺りから東へ移動する感じだ。

徒歩移動。

だが、ルナやウルダには、何の苦痛もない。

普通に歩いているようで、その移動速度は車よりも速いだろう。

飛んでもよかったのだが、環境の全く違う世界だ。

その景色を楽しみたかった。


「ウルダ・・この世界はきれいなところが多いな」

「はい、ルナ様。 私もそう思っておりました」


移動中にも魔物とは遭遇するが、向かってくるものは倒し、それ以外は無視して進んでいた。


途中、チベット周辺だろうか・・。

先住民族と出会うも、特に何も起きなかった。

おとなしい民族だ。

転移してきたときに出会った、アホどもとは違う。

ルナは知ることなないが、仏教国の住民で、もともと争うこともない民族だ。

その分、今までの世界では滅亡しかかっていたようだが・・・。


この辺りの魔素は、それほど濁ってもおらず、ルナもウルダも気持ちよく通過することができた。

気分が良いので、何やら重病者がいたりしたが、それらを回復したりすると、神様だとお祈りされたりもした。

そんなことがあり、高い山、ヒマラヤ山系を越えて進んで行った。


「ルナ様・・この魔素の感じは・・」

ウルダが立ち止まってルナを見た。

「うむ。 私もそう感じていたところだ。 ドワーフ族のものだな・・・」

「接触してみますか?」

ウルダは問う。

「そうだな・・・新しい環境でもあるしな、会ってゆこう」

ルナとウルダは特定の魔素を感じつつ、その方向へ移動していった。

だんだんとドワーフの魔素が大きくなってくる。


「ウルダ・・あの山のところ辺りだな」

「はい」

この景色・・それにしてもきれいだな。

雪まであるではないか。

空気も魔素もきれいだ。

・・ドワーフめ・・良い場所に転移してきたな。

そんなことをルナは思っていた。


太陽が出てきていた。

ヴァンパイアは太陽に弱いのではないか?

それは地球の話である。

ルナも確かに太陽には弱い。

日焼けが嫌なのだ。

ただ、夜の神に属する魔法が、若干威力が弱くなる程度で、あとは普通の種族と変わらない。


「・・この星にも太陽があるのだな」

「あるみたいですね・・・ルナ様は太陽、お嫌いですからね」

「あぁ、肌が痛むからな」

そんなことを話しているうちに、ドワーフのいるであろう場所へと到着していた。


大きな木の下に、がっしりとした男が座っていた。

横に斧を置き、昼寝でもしているのかと思っていたが、どうやら自然と会話している感じだった。

・・・なるほど・・・


ドワーフに近づいて行く。

がっしりとした男は、近づいてくる女二人に気づいたようだ。

「・・あっれ? ヴァンパイアの姫様じゃないですか?」

白い口髭がモゾモゾと動きながら話しかけてきた。

「うむ。 貴様は・・確か、ドワーフの長老ではなかったかな?」

ルナは記憶を探っていた。

「えぇ、確かに、その通りです」

「長老・・貴様一人が転移してきたのか?」

ルナは問う。

「・・いや、それがわからんのです。 王が先に行けと言って、私たちが転移させられまして、困っておるのです。 動くにしてもわからぬ場所で、こうして待っております」

ドワーフの長老はそう言って頭を掻いていた。

「そうか・・邪魔をしたな。 王が来たら、よろしく伝えてくれ」

ルナはそう言って、また移動を開始した。


ドワーフの長老はルナの背中で大きな手を振って見送ってくれた。

ルナも軽く手を上げて返事をした。

「ルナ様・・ドワーフの長老・・大丈夫でしょうか?」

ウルダは、やや心配しながらつぶやいていた。

「・・大丈夫であろう。 あれでも長老は、レベルもお主ほどあるしな・・・」

「そりゃ、そうですが、何と言うか人が好いというか、優しいというか・・」

ウルダが心配するのも無理はない。


この地球では、異世界人など存在しなかったのだから。

存在していても、それを認めることができなかった種族なのだ。

そして、自分たちがこの星の頂点に君臨した、絶対者として振舞っていたのだ。

そんな傲慢な人種と接触して大丈夫なのかと、心配していた。


ルナは最初に接触した、先住民族のレベルから推察していた。

それほど高いレベルは存在していない民族なのだろうと思う。

魔素の存在も知らない種族だ。

脅威ではあるまい。

ただ・・うっとうしい感じではあるな・・・。

そんなことを思っていた。


!!!!


「ウルダ!・・この魔素・・アニムに似ていないか」

「・・ルナ様・・・えぇ、似てますね。 こちらの方向で間違えてはいなかったようですね」

ルナとウルダは東へ、東へと移動して行く。

確実にアニムとの距離は縮まっていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

どうやら異世界ではないらしいが、魔法やレベルがある世界になったようだ 『ルナ転移編』 ボケ猫 @bokeneko

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ