永遠の命
「行ってきます」響樹と勇希、華麗の三人が玄関で靴を履いている。 何も無かったかのように朝が来た。
「行ってらっしゃい ・・・・・・・・さよなら響助・・・・・・・」静香が新妻のようにエプロンを身につけている。 なぜか、静香は悲しそうな瞳をした。少しの時間をおいて彼女は気持ちを切り替えるように頬を両手のひらで叩いた。先ほどまで目の前にいた男性は響樹であった。自分の知っていた響介と顔と姿は同じであっても、自分との思い出を共有していない別の男なのだと感じてしまう自分がいた。その思いは詩織が現れて、再び消えてしまったことで、はっきりと認識してしまうようになってしまった。響樹にとって詩織は全く知らない女性という扱いであった。あんなに仲良く遊んだ日々を彼は覚えていないのだ。
「よし!」静香は気持ちを切り替えて、気合を入れるとキッチンに向かった。彼女は勇希の料理に触発されて勉強を始めたようだ。 ただ、なかなかその腕はあがらず料理と呼べないものが誕生することが多々あった。
もっぱら味見役は響樹の仕事であった。
「どう、一緒に車に乗っていく?」庭の駐車場でシンディが、黒いランボルギーニ・カウンタックのエンジンを吹かしている。
「結構です。 その車ほとんど二人乗りじゃないですか!」勇希が突っ込む。 ツーシータの車に勇希が乗り込むスペースは無い。
「そう、それじゃあ、お先ね! See you again!」シンディはカウンタックのドアを閉じると激しい爆音を上げて走っていった。
「まさに、ゴキブリね……。本当にあれで先生が務まるのかしら・・・・・・」言いながら勇希は響樹の腕の辺りを見つめた。響樹の腕を華麗が独占している。小さい体だがそれに似合わない大きな胸を存分に押し付けていた。
「えへへへ、お兄ちゃん! あのね、あのね・・・・・・・」華麗が取り留めの無い話題を繰り広げている。
「ちょっと、華麗ちゃん・・・・・・・もう少し、離れたほうが・・・・・・・」勇希が華麗の服の裾を掴んでチョイチョイと引っ張った。
「まあ、お姉さま・・・・・・焼きもちですか? 仕方ないですね」言いながら、華麗は反対の腕を勇希の腕に絡めた。
「え、あ、そういう訳じゃ・・・・・・・」思惑と違った回答に勇希は戸惑った。
響樹は胸のペンダントを見つめながら思いを巡らせていた。
「やはり……、嵐子さんの事・・・・・・・気になるの?」
「ええ、俺は憶えていないのですが、昔の俺って、色々な人達を不幸にしているのかと思って・・・・・・」響樹は少し悲しそうな表情をしていた。もしかすると彼女達の他にも、自分のせいで不遇な人生を送っている女性がいるのかもしれないかと思うとやるせない気持ちになった。
「そうね……、女の人限定みたいだけどね」少し呆れたような顔を見せた。もしも、男の人に響樹がキスしたらどうなるのであろう・・・・・・、とそこまで考えてから勇希は、その考えを打ち消すように頭を振った。彼女のその顔がなぜか少し赤くなっている。
「そうですね、俺って最低な奴ですよね。それと詩織さんっていう人が言っていた破壊神の事も気になるし、俺は本当がこの世界に居ないほうがいい人間なのかなって思っちゃって……」ペンダントを力一杯握り占めた。何かを自分に託してくれた嵐子という女性の面影が浮かぶ。
「・・・・・・・でもさ、響樹君と出会って幸せになった人もきっといると思うよ」勇希は上目遣いで空を見上げている。まるで、自分がそうだとでも言いたいような感じであった。
「そうですかね・・・・・・・、それならいいんですけど・・・・・・」響樹にはその言葉には心底同意する事が出来なかった。
「嵐子さんも、本当は貴方と一緒にずっといたかったんじゃないかな・・・・・・、だからそのペンダントをあなたに託したのよ。 本当に響樹君の事が嫌いなら・・・・・・・あなたの前に彼女が二度と現れなかったと思うわ」勇希は響樹の横顔を見ながら呟いた。
「・・・・・・」
「私達も幸せよね。華麗ちゃん?」勇希は華麗に助け船を頼むかのように聞いた。
「ええ、華麗は今が一番幸せです!」華麗は可愛い顔で微笑んだ。本当に彼女は幸せそうであった。
「有難う、華麗。勇希先輩」響樹はペンダントを胸にしまいながらお礼をいった。本当に彼女達の言葉にいつも救われると響樹は感じていた。
「それから・・・・・・・そろそろ・・・・・・、その先輩って言うのはやめて・・・・・・・ほしいな・・・・・・」勇希は少し小さな声でお願いした。
「え、何か言いました?」響樹は聞き取れなかった様子で聞き返した。肝心なところはいつも聞き逃して、本当に都合のいい耳を持っているなと勇希は憎らしくなった。
「だ、だから・・・・・・・」本当に女心が解らない男だと改めて認識する。もう少し気を配ってくれればと静香は思っていた。 ただ、そこも響樹の魅力なのかと考えたりもした。
「あー!!!」突然、華麗が叫ぶ。
「どうした、華麗?!」突然大声を出した華麗の声に二人は驚いた。
「お兄ちゃん、お姉さま!このままでは、本当に 遅刻してしまいます!」華麗は二人の手を握り走り出した。
「ちょ、ちょっと・・・・・・・!まだ話が・・・・・・」勇希は言葉を制止されて少し憤慨した表情を見せた。
「えーと・・・・・・、急ごう! 勇希!」響樹は少し顔を赤く染めて呼んだ。やっぱりさっきの勇希の言葉は彼の耳に届いていたようだ。
「え?・・・・・・・・あ、うん!」この時が永遠に続くように勇希は願いをこめた。
おしまい
あなたにキスしてほしいのは、世界平和の為なのよ! 上条 樹 @kamijyoitsuki
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