第3話 ほろ苦い味

進が通っている高校の最寄り駅のそばには、あまり知られていない喫茶店があった。

進はそこで一息ついたとき、

カランと店のドアが開く、


そこには少し不機嫌さを出している香里奈の姿があった。

「店の前で待つぐらいの男としての努力はできないのか?」


「いやぁ、さすがに僕も学校で高嶺の花と名高い先輩といると ちょっと 」


「君はインターアクト部の副部長だから打ち合わせとか適当な理由つければ大丈夫だと思うがな

まさか、意識してくれて……」


「いや それはないです。」

その事はないと完全に進は、否定した。確かに魅力的な部分も多いことは確かだが、先輩との埋められない何かが突っ掛かった故の言葉だった。


「まあ返事はわかりきっていた。さて本題に入ろう 菊穂と何があった?」

香里奈はからかいは終わりだ。というように手を叩いた。

「先輩にはもうばれていると思いますけど、菊穂に告白したんです‥‥‥‥‥‥」

と進は事のてん末を話した。

すると香里奈は、やはりあの言葉に引っ掛かるようだった。

「もう、遅すぎた か。遅すぎたということは、何らかの原因で君とは付き合えないということだが、心当たりは君にはないのか?」


「なければこんな失恋話しませんよ。」

と進は頭をかいた。


「しかし、とても大きな理由でない限り菊穂の性格的にも、断れないだろうな。もちろん同じ女子としてもだ。」


「先輩は少し というかだいぶ菊穂とは違うタイプですけどやっぱり、そうですよね」

と声が徐々に縮こまる進に香里奈は、


「そんなに落ち込むことはない。その原因さえ取り除けばいいんだろう。

まあその原因が一番の難関だがな。」

進は、その言葉に深く頷いた。と同時に香里奈が、


「せっかくだ。私は、ココアにするが、君は?」

「俺は、コーヒーで」

先輩の意外とお子様なところには突っ込まないことにしたが、香里奈先輩の方から


「今の私の行動は、ギャプ萌というやつかな?」


「無理して 時代の波に乗ろうとしなくても先輩は、先輩のままがいいです。」

そうか と急にいずらしそうにし始めた先輩に申し訳なくなり、

「それにしても、修学旅行の件ですけど かなりまずい気がするんですよね」


と投げかけてみると、すぐに

「何も菊穂だけだとは思ってないだろうな?ちゃんと、エリィのことも見てやってくれ、彼女も一人のか弱い女の子だからな」

「それは、先輩だから‥‥‥‥‥‥」と香里奈先輩から顔を背け、続けようとしたとき、

不意に香里奈先輩を見ると、何故か悲しい顔 いや 寂しい顔だった。

その顔を見て何もいう気が失せた。


「すまない 今、エリィのことから昔の部活のことを考えてしまった。今の菊穂とエリィには、明らかにあの日から変わってしまったな。でないとあんな事エリィもそうそう言わないだろう。」

先輩が、あえて伏せたのは丁度半年前ぐらいの話でエリィの先程の部活での発言だろう

それが今でもどこかエリィにひかかっているらしい

先輩は続けた、

「私は、もう引退が近づいているから、せめてあの2人の関係性だけは、戻してやりたい

だから、是非君に修学旅行を通してなんとかしてほしいのだが、できないか?」


「先輩、今の俺の立場かなりやばいのわかってます?もちろん 先輩がここで口を出すのは違うって事はわかりますけど、」


自分で言っててわかる これは、ただの言い訳だと、これ以上関係を壊したくない故のわがままだと、


そして先輩がこれからのために言ってくれていることも。 


「私が頼めるのは、今君しかいない。」

先輩の真っ直ぐな瞳に進の瞳に映る


これはチャンスなのかもしれない。なぜなら、菊穂とうまく関わる口実になるからだ。

しかし、一回あそこまで精神的にやられていることも事実だ。

そんな終わりの見えない迷路に迷い込んでしまっている様子がコップの延長に見えたのか香里奈は、


「ここでヒント、というか物事の考え方だが、

過去は変えられないという事をよく人はいうものだが、それは果たして正しいことなのか?今を起点にして考えれば、過去はどうしようもない。だがな、未来を起点にして考えれば、どうだ。未来から見た過去は、今だから未来を変えられる今の価値を考えるべきだ そう今この瞬間もだ。」


「なるほど、今ですか。」


その理知的でない、いわば観念的なものに賛同してしまった。あの失恋した日から、感情というものはもろく、上っ面だけのものだと思っていたのにだ。


「わかりました。自分なりに頑張りますよ。」

今回は、香里奈先輩のために引き受けることにした。自分の中の何かが拒んでくる感情を無下にはできないと思い、

感情論に感銘を受けたのではなく、

あくまでも人のための1つの仕事としてという意味を込めて

進は、

「もし、関係が、もとに戻ったら何か報酬ください。それが、条件です。」


「わかった。その条件で行こう。何かあったら、連絡してくれれば相談に乗ろう。」



◆◇◆◇◆◇◆


進は、すぐに修学旅行の件について考えますと言って、喫茶店へを出ていった。

「君も素直じゃないな。

報酬なんて言わずに、お願いって素直に言えばいいのに━━━━そういうところがどうしてもな。」

と時間を告げるように流れる音楽の鳴り響く喫茶店の中で、古びた時計だけが、香里奈の発言を納得して聞いていたのだった。




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失恋した男でも学園ラブコメに参戦できるだろうか? 涼野 鷲 @szdra

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