第7話 日常

『––6月、周囲の視線は疎らで、詩を書いている僕を見ようともしなかった。


「うらおもて」


 雲ひとつない空に 蜘蛛ひとつ

 銀色のようで 白い 糸が 空にひとすじ

 みどり色とかっ色の身体に 水をまとう


 陽のひかりは あったかくて それでも冷ややかで

 朝のかぜも 夜のかぜも 夕方のかぜも またおなじ


 いろんな色の猫が 群れになってはしってる

 黒い息をはきだして


 みずかがみの裏

 表をうつし出そうとしないで 隠す

 観ようとすると 吸いこまれてしまう



 窓を開けると、鼻腔を冷やす空気が部屋中に回り込み、カーテンの外側は闇に紛れ、電気が三等星や四等星のように、まばゆく存在感を出していた。』



「さてさて、に戻らねば…」


 本職こっちだもんナ、と自由人こと私、大生岬おおざき佐倉さくらは、周囲に原稿を見られないように、コソコソとノートパソコンを仕舞う。


「佐倉っちぃ~! っとぉ…危なぁ……」


「相変わらず落ち着きないなぁ……。もうちょっと、おしとやかに過ごしたらどうよ?」


「いいじゃん、別に……。あ、それ、また応募するの?」


「今度はミステリーに挑戦するのよん♪」


「また、ゾンビ出てくる系…? 流石に、ミステリーにファンタジー要素を混ぜること無いでしょ?」


「えー? 駄目?」


「いや、駄目という訳じゃ……。…あっ、報告書纏めるの忘れてた!」


「おー、お疲れ…って! 話をすり替えるなぁ!」


サエラこと、不二ふじ紗画蘿さえらは、そそくさと退場。


毎度同じやり取りを繰り返しても、何故か紗画蘿はその度に違う反応。

こっちは多少飽きたけど……。


「佐倉さーん? 紗画蘿さーん?」


「あ、憂花ユウカちゃん」


「局長がお呼びだけど。確か…、早く報告書を纏めろとか、絵のモデルになれとか…」


「…じゃあ、早く行こう…」


「最近指名されてないもんねー…」


日常だ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

血の無い骸の上を歩ける程、そんなに強くない。 朝陽うさぎ @NAKAHARATYUYA

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ