31話 祝福へ

「よし!準備は万端だよ!」


リンが装備を身に着け、両頬を張って気合を入れる。

彼女の上半身にはミスリルシャツと、その上からオリハルコン製の胸当てが身に着けられていた。

オリハルコンは地上で最も硬い金属と言われ、少々重量が嵩むが、その安全性から胸当てとしてリンは身に着けている。


下半身は厚手のズボンを履き、関節各部ににはミスリルで編まれたサポーターが装着されている。

ズボンに関しても、魔法処理を受けたものでかなり頑丈に出来ていた。


「気合十分だね」


「うん!」


僕の言葉に元気よく返事が返って来る。

彼女の髪は以前より少し伸び、肩口まで伸びた髪の毛は、女神ティティス様を模っている髪留めで止められていた。


勿論これも只の髪留めではない。

ダンジョンのノーマルルート最奥で見つけた装備だ。

これを付けると頭部に特殊なエネルギーフィールドが発生し、装備者へのダメージを防いでくれる強力な効果を持っている。

これは神の祝福が籠った神器級の装備であり、リンが頭に装備を付けていないのはその為だった。


「でも、やっとだね」


初級ルートを攻略して早1年。

僕達は必死にレベル上げをした。

その結果リンのレベルは40を超え、僕もレベル10にまで上がっている。

勿論既にノーマルルートは制覇済みだ。


ここ迄レベルが上がるとリンの能力も相当な物で、今の彼女はゴーレムやガーゴイルすら容易く切り刻めるレベルに達していた。

今の彼女なら、あの時の亀の見えない攻撃に対応するだけの反射神経も備わっているだろう。


しかも僕のスキルには、ブーストという仲間の能力を大幅に引き上げる物も加わっている。

効果時間が短いため常時という訳には行かないが、必要となる様な相手は基本エリアボス戦だけなので問題ないだろう。


この状態のリンが敵の攻撃を躱せず喰らうと言う事はまずない。

つまり、僕達にとっての最大の脅威である不意打ちを喰らう心配はもうないと言う事だ。


「これが終われば、リンは呪いから解放される。頑張ろう」


リンがダンジョン攻略に冒険者として乗り出したのはティティス様の祝福を受け、生まれた時にかけられた不幸の女神からの祝福のろいを抑え込むためだ。


そのダンジョン攻略も遂に大詰めを迎え、後はハードルート最奥のエリアボスを倒すのみだった――ここは宿屋ではあるが、それはイージールートで手に入れた転移の宝玉の力で、一時的に戻って来ているだけの事。


「うん!あ、でも呪いが無くなってもサイガとはずっと一緒だよ!」


「そうだね、ずっと一緒だ」


「約束だよ!」


「うん、約束だ」


僕は出来もしない約束を口にする。

僕に残された時間は残り4年。

4年後には消えてなくなり、そしてリンや、僕とかかわったすべての人達の記憶から僕の痕跡は消える。


それが体を動かせるようになった代償だった。


別にこれはティティス様の意地悪じゃない。

本来動けない人形である僕が動く事で、世界には大きな影響を与えてしまっている。

その与えた影響による揺り戻し少しでも抑えるため、それは仕方のない事だった。


でも大丈夫。

祝福を受け、リンが呪いを心の底から気にしない様になれば、彼女なら直ぐに一杯友達が出来る。

そう……ダンジョン攻略さえできれば、もはや何の心配もないのだ。


忘れられてしまうのは少し悲しいけど、まだ4年もある。

ダンジョンを攻略し、残り4年をリンと楽しく暮らそう。

忘れられても寂しくないぐらい一緒に楽しく。


「さあ、それじゃあ行こうか」


僕が手を翳すと、目の前に光の道が現れる。

繋がっているのは最終ボスエリア手前。

普通に戦えば、ベテランの冒険者達100人がかりでも叶わない様ない相手がそこには待ち受けている。


だけど僕には最強のビーム攻撃と、彼女を守るための最強の防御力がある。

もはや僕達に何の憂いも無い。

行ってボスを倒すだけだ。


「うん!頼りにしてるよ!サイガ!」


リンは僕を抱え、光の道に飛び込んだ。

その顔に緊張はない。

今までの努力と、僕の事を信じてくれている自信に満ちた表情だった。


さあ、行こう。

そして彼女が心から笑顔でいられる輝かしい未来をその手にするんだ。


~fin~

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ぬいぐるみ転生~呪われたエルフの少女を救うため、レベルを上げてダンジョンを攻略~彼女は僕でパリィする まんじ @11922960

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ